俺の胸倉を掴んでくれ (ページ41)

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side 紫

「お待たせ。」

無難に緑茶を二本買って戻ると、Aはまるで謝るようなトーンで『ありがとう。』と辛そうに微笑んだ。

俺達に流れるのは無言の時間。

俺から切り出していいのか、Aが話すのを待った方がいいのか、考えあぐねているうちにお互い何も言わないまま時間が過ぎて行く。

『ふっかさん』

どうしようかって時にAが静かに口を開いた。

『…お茶、ありがとう。』

「どーいたしまして。」

明るく返すのも暗く返すのも違う気がして、微妙な返しになっちゃった。

『………おみくじね？』

おみくじ？

『本当は “ 用心せよ ” じゃなかったんだ。』

「そっか。」

そこまで話すとまた黙り込むA。
俺の方を見ることなく真っ直ぐ前を見てる。

「なんて書いてあったの？……って聞いてもいいの？」

『……………多分、いいことが書いてあった。』

ちっともそんな風には見えないけどな。

「良かったじゃん。当たるといいな。」

『……………当たらないよ。』

憂いを帯びた横顔。

そんな顔すんなよ。
俺はAに笑ってほしいんだよ。

「なんでそう思うの？」

『……だってあれは今年の運勢でしょ？…来年になったら変わる。』

そんなこと言われたら何も言い返せねーよ。
来年、Aがいいやつ引けるかどうか俺には分かんねえから。

「おみくじとか信じないと思ってた。」

『信じてないけど信じたくなっちゃって。』

一瞬だけ目が合う。
ふふっと寂しそうに微笑むAにまた心臓が音を立てる。

俺が好きになった素のAだ。

「信じたければ信じればいいし、信じたくなければ信じなければいいんじゃない？」

『……簡単に言うね。』

Aの顔から僅かな微笑みさえも消えた。

「…ま！俺は単純だからさ、良いことなら信じるし悪いことなら信じないけどね。笑」

『…ふふっ。ふっかさんらしいね。』

今度は一秒間目が合った。

また心臓が音を立てる。

「…で？なんて書いてあったかは教えてくんねーの？」

きっと教えてくれない。
Aが超頑固だってことは俺が一番良く知ってる。

…