俺の胸倉を掴んでくれ (ページ29)

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『それで今日はどこに行くの？』

この状況を断ち切りたくて話を変えた。

「んーとね、鎌倉。」

『鎌倉？』

「そ。」

どうして鎌倉？ふっかさん鎌倉好きなのかな？

「今日はデートですから。Aの好きなとこに連れてきたくて。」

わたしの心の声が聞こえたように自然に答える彼。

……もしかして照くんかな？

少し前、照くんに「理想の初デートは？」って聞かれたことがあって『神社仏閣が好きだから東京近辺なら鎌倉に行きたいな。』って答えた記憶がある。
照くんの聞き方がただの暇つぶしだって思ってた。だからって素直に答えたのがいけなかった。

『照くんに聞いたの？』

「何を？」

誤魔化してるようには見えないけど、でも照くんから情報が流れなければ彼は知らないはず。

「あ、鎌倉？」

『うん。』

「違うよ。」

違うの？じゃあどうして？

『ふっかさん、鎌倉好きなの？』

「うん、まあ俺も好きだよ。でもAが好きだろうと思って。
よく京都特集とか見てるじゃん。去年六義園に紅葉見に行ったって言ってたし。そういうとこ好きなんだなって思ったの。

夢の国と迷ったんだけどさ、初デートはAとのんびり色んな話したかったんだよね。」

……確かに鎌倉好きだけど。でも嬉しいけど嬉しくない。
それならせめて夢の国にしてほしかった。
わたしは初めてのデートでは夢の国は嫌だなって思ってるから、少しは貴方を嫌いになれたかもしれないのに。

『そっか。ありがとう。』

わたしはそれを誤魔化すように単調にお礼を言った。

…それなのに。

「ん。どーいたしまして、Aちゃん。」

そう言って笑った彼の耳は赤くて。
それを隠すように左手で頭を掻いていて。

素直に照れないでよ。そんな反応やめてほしい。あんな心の篭ってないお礼に照れるなんてそんなことしないでよ。

………貴方にわたしは似合わないよ。

こんな偽りだらけの女じゃなくて、もっと真っ直ぐ貴方を見つめてくれる素敵な女性がいるよ。
貴方なら選り取り見取りだよ？

お願いだからもうわたしから離れて。
これ以上傍にいられたら貴方を信じたくなる。
貴方の気持ちが一時的なものじゃないのかもしれないって思いたくなる。

信じたら傷つく未来が見えているのに。

…