俺の胸倉を掴んでくれ (ページ23)

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前途遼遠ページ23

…

目黒くんとは改札で別れた。

「まだお酒飲める？」

なんで急に奥手になるの？
なんでそんなに優しい顔をするの？

いつもみたいに強気でいてよ。
いつもみたいにふざけた顔でヘラヘラ笑ってよ。

もう色々なことで胸がいっぱいだった。
今日はもう何も上手に取り繕えない。
わたしは綺麗に笑えてるかも分からない顔をゆっくり横に振った。

「じゃあ帰ろ。家まで送る。」

『大丈夫だよ。すぐそこだから。』

「うん、わかってる。

照ごめん、先店行ってて。すぐ行くから。」

大丈夫って言ったのに。

「ん、わかった。A、おやすみ。」

皆んながいつも通りじゃなかった今日、いつもと変わらない笑顔を見せてくれた照くんに心底ホッとした。

『おやすみ、照くん。』

彼と終始無言になるのかと思ってたけどそんなことはなくて。

「A、今度どこ行きたい？」

『…何か約束してたっけ？』

「ひでーな。笑

来週俺とデートだろ。」

『あ、そうだったね。』

彼の言葉に “ お出かけだよ。” って瞬時に返せないほど今日のわたしは心が乱れてる。

「デートでいいの？」

あ…いつもの顔。ニヤニヤしててちょっと嬉しそう。

『お出かけでしょ？』

「そう言うと思った。笑」

わたしはさっき彼に酷いことを言ってしまったのにいつも通り接してくれる。
わたしの心が少し軽くなったのは、きっと彼のおかげ。

でも、“ ありがとう ” そう言いたいのに言わないのは、これ以上彼を侵入させないため。

マンションの入口で別れようとしたのに、結局玄関の前まで送ってくれて。

「なんかあったら連絡して？すぐ下にいるんだから。」

『すぐ下は13階だよ。』

「わかってますよ、お嬢さん。笑

じゃ、おやすみ。」

『おやすみなさい。』

扉が閉まると、力が抜けてそこにへたり込んだ。

『…ありがとう。ふっかさん。』

自然と口から零れた言葉は、聞こえないふりをした。

…