俺の胸倉を掴んでくれ (ページ3)

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side 黄

「ふっか、ほら帰んぞ。」

ふっかの二の腕を引っ張り上げようとすると、「Aちゃん、ちゅーして。ちゅーしてくれたら帰る。」なんて素面のくせに酔っ払いみたいなこと言う。

しかもそれが妙に色っぽい。言葉はふざけてんだけど、Aを見つめる目といつもよりちょっとだけ低い声がきっと色気を醸し出してんだな。

ふっかは自他共に認めるモテ男。とにかくモテる。
見た目もかっこいいし誰にでも優しい対応で細かいことにすぐ気づく。
男の俺でもそう思うんだから、女の子は尚更だろ。

俺だって割とモテる方だと思うけどふっかと比べたら霞むぐらいだ。

高校の時ふっかに振られた女の子が “ あんなことされたら両思いだと思うじゃん ” って涙ながらに言ってたけど、本当にそういう奴だなって俺も思うよ。
だからふっかと少し一緒に過ごせば普通の女ならすぐ落ちるはず。

でもAは並の女じゃない。

秘密主義の魔性の女。

しかもふっかを勝る残酷さ。
相手に “ おっ ” と思わせた次の瞬間、ガチャンと一気にドアを閉める。

だから俺も一歩間違えたら、危うく望みのない恋愛街道を突っ走ってたかもしれない。

『じゃあ帰ってくれたらキスしてあげる。』

ふっかを見つめてニッコリ微笑む顔は、聖母のように柔らかい。

「ふふっ。じゃあ今日は帰る。」

しょっちゅうこのやり取りをしてて、Aがふっかにキスしたことなんて一度だってないんだけど、ふっかの顔はご満悦だ。

『あ、ちょっと待って。いただきもののゼリーがあるんだけど持って帰る？』

「お、ありがと。せっかくだから貰「冷蔵庫に冷やしといてよ。」

“ せっかくだから貰うわ。” そう言おうとした俺の言葉はふっかによって遮られた。

「次来た時に食べるから。」

柔らかい表情には似合わないふっかの鋭い声。

『わかった。』

でも、なんの動揺もなく平然と微笑み返すのがAだ。

『えっとね、林檎と蜜柑と葡萄と桃があるんだけどどれがいい？』

「俺、桃がいいな。ふっかは？」

「葡萄。」

葡萄はAが好きな果物。
ふっかにとってなんのアピールなのかは俺には分かんない。

俺に分かることは、二人が合戦の真っ只中ってことだけだ。

…