俺の胸倉を掴んでくれ (ページ13)

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「好みが似てんね。」

『そうかな？』

「うまいね。」

『うん。葡萄にして正解だったね。』

「ね。今度俺とデートしよ？」

ここ何ヶ月かわたしの心身を乱す存在。
わたしの見た目か、見せかけの優しさか、どっちが気に入ったのか知らないけど、頻繁に家に来て頻繁に誘って来る迷惑な男の人。

フラットに見て彼はかっこいいと思う。モテるんだろうなっていう温かい優しさを持ってる。

……わたしとは大違いの魅力溢れる人。

だから、たまに彼を ” 素敵だな ” って思ってしまう自分がいる。でもそんなの認められない。

だってすごく恐い。

……彼は過去の人達と似てるから。

皆んなかっこよくて優しくて大事にしてくれた。

わたしが振り向くまでは。

それにわたしは恋愛を捨てた身。
それだってなんとなく決めた訳じゃない。
三回の経験から学んで、きちんと覚悟した上で決めたもの。

だからさっさと告白してほしい。
そうすればわたしも堂々と振ることが出来るのに。

彼は “ 好き ” っていう言葉以外でなら、その好意を嫌というほど伝えて来る。
しかも故意なアピールかと思えば急に耳を赤く染めたり。耳を赤く染めるなんて嘘の気持ちで出来るものじゃない。
だから余計に質が悪い。

でもまるでわたしの思惑が分かってるみたいに、言葉だけは一向に伝えて来ない。

だからわたしは彼との関係を計り兼ねてる。

『お出かけ？ふふっ、いいよ。久しぶりだもんね。』

「お出かけじゃない、デートだよ。」

『あ、デートって名前の方が楽しい感じがするから？』

「Aがどんな解釈したって、歴としたデートだよ。」

そう告げる彼の声も表情も柔らかいのに、目だけはそれを切り裂く真剣さ。

今日は珍しいな。
わたしが『お出かけでしょ？』って返せば「じゃあお出かけでいいよ。」って言うのに。

彼は恐いぐらいにわたしを見ていて、一番開けられたくない扉を何度もノックする。

そのせいで最近わたしは少しおかしい。

…でもこれは風邪と同じ。一時的なもの。そう信じてる。

貴方だってきっとそうだよ。
もう時期、病が治る時が来る。

今はそう思っていなくてもいずれそうなるんだよ。
それとも、貴方とわたしがお互いを想い合う幸せな恋人同士になれるとでも？

そんな未来……ある訳ない…。

…