▼17 ページ19
全ての食事を終え、当然の如く一人で食器を片付ける。
その間、やはり京本はソファでテレビを眺めていて。
笑う度に揺れる金髪、少しだけ響く高い声。
決して振り向くことのないその背中に、幾らか寂しさを覚えるけれど、それがどういう意味なのか、自分でさえもわからなかった。
ー−さて、片付けが終わった、が。
この後彼になんて声をかけたら良いものか。
答えが出ずこめかみをグリグリと押さえつけた、その時。
京本が振り返った。
俺は咄嗟に、視線を斜め下に逸らす。
「俺、そろそろ帰るわ」
「……あ、ああ」
当然だ。
そもそも今日はたまたま互いに仕事がなくて、なんだか昨日のままで終わるのも気まずくて、だから京本が俺を誘ったのだ。
ただ、それだけのこと。
そう、要は暇つぶし。
食事だってこちら側が勝手に用意したものだし、それ以前に彼は病人。
それなのに、大して仲良くもない相手と二人きりなんて、長時間はさすがに無理だろう。
そんなの、俺だってそうだけれど。
それでも何故、俺はこの後のことを考えてしまっていたのだろう。
馬鹿馬鹿しい。
お門違いにも程がある。
無駄な思考回路を排除して、立ち上がり玄関へと向かう京本の背中に声をかけた。
「京本」
「ん？」
「ちゃんと帰ったら風呂入れよ。薬も飲んで、体冷えないように」
「母ちゃんかよ」
「大丈夫だって、もうそんなヘマしねーよ」と眉間に皺を寄せて、また口を尖らせながらブツブツ言う目の前の彼に、ヘマしたのかよなどと心の中でツッコミを入れる。
駅まで送らなければ、とわかってはいるものの、そんな勇気さえ自分にはなくて。
「今日はありがとう」と続ける京本を、俺はただ見送ることしかできなかった。
なんて弱い自分。
臆病な性格に嫌気が差しながら、ドアの鍵を閉めようとした。
その時だった。
ガチャ、と扉が開いて、いなくなったはずの金髪が顔を覗かせた。
その距離、僅か数センチ。
どく、と脈打つ俺の心臓なんか御構い無しに、彼は言い放った。
「そういえば、俺も持ってる」
「っは、？」
「俺も黒い薔薇、部屋にあるから！」
固まり続ける俺を他所に、風のように姿を消した京本。
黒い、薔薇、？
いなくなったアイツの言葉を頭の中で反復して、
俺はようやく、自分の失態に気付いたのだった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 546人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SixTones」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白梅(プロフ) - なぺこさん» なぺこさんコメントありがとうございます！嬉しい言葉がたくさん、、！不定期更新ですが、ぜひこれからも応援よろしくお願いします！ (2019年6月3日 16時) (
レス) id: ff41a5aa52 (このIDを非表示/違反報告)
なぺこ(プロフ) - とても面白いです！文章から、その時の情景がすごく伝わってきて読みやすいです！！好きです！応援してます！！ (2019年6月2日 22時) (レス) id: 7d886639bb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：白梅 | 作成日時：2019年5月15日 18時
