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どうして、気付かなかったんだろう。

どうして、これがここにあるんだろう。


ぐるぐる回る思考回路と、相反するように固まる身体。
触れた指先が、氷に触れたみたいにビリビリと痛む。
どうして。

少しずつ速くなる鼓動をかき消すように、ガチャリ、と部屋の扉が開かれた。



「…ただいま」

「お、かえり」

「なにしてんの」

今まで固まっていた身体が嘘のように、反射的にソファへとダイブする。
そんな俺の姿を見て、僅かに眉根を寄せる北斗。
…くそ、誰のせいでこんな姿になったと思って。

なんて思っても、何故だか口には出せず。
俺はキッチンへとそのまま向かう北斗の後ろ姿を、ただ眺めることしか出来なかった。

ガサゴソとビニール袋を開き、買ってきた食材を順に冷蔵庫へしまう。
その手際の良さから、ああ、普段からやってるんだなあ、なんて。
自分とは正反対の生活を送る北斗は、なんだか遠い存在のように感じた。


「…あ、エプロン」

「ん?」

「料理する時、エプロンすんの?」

「ああ、…まあな」


「すげ〜」「本物だ〜」と揶揄する俺を「いいからテレビ見てろ」と一蹴する北斗。

大人しく前に向き直って、当たり前のように画面の向こうで話を進める先輩たちを眺める。
尊敬する先輩たちの声と、後ろから聞こえるトントン、とリズムの良い包丁の音。
こんなにゆったりと、心地の良い時間を過ごしたのはいつぶりだろう。
最近は個人仕事が立て込んでいたから、一ヶ月ぶりくらいになるかもしれない。
そう考えると、少し強引ではあったが、コイツの家に来たのは正しかったのかも。なんて、自分を正当化した。


暫くすると、だんだんと鼻に届く柔らかな香り。
思わず振り向けば、白い食器から、ふんわりと湯気が昇っていた。

ソファから立ち上がり、それに顔を近付ける。


「すげー、なにこれ。スープ?ご飯?」

「クラムチャウダーのスープご飯」

「らむ?ちゃう?よくわかんないけど美味そう!」


「クラムチャウダーな」とかなんとか突っ込む北斗をよそに、二人分をまとめて運ぼうとした時だった。
パシ、と北斗に腕を掴まれる。

「え」

「…危ないから、先座って、席」

「いやこれくらい手伝うって」

「いいから」

そうぶっきらぼうに俺を制して、さっさとテーブルへと運び始める北斗。
優しいんだか、不器用なんだか。
そんなコイツの言動に思わず笑ってしまった。


だからだろうか。

俺はもう、あの造花のことを、すっかり忘れてしまっていた。


.

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作品ジャンル:恋愛
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白梅(プロフ) - なぺこさん» なぺこさんコメントありがとうございます!嬉しい言葉がたくさん、、!不定期更新ですが、ぜひこれからも応援よろしくお願いします! (2019年6月3日 16時) (レス) id: ff41a5aa52 (このIDを非表示/違反報告)
なぺこ(プロフ) - とても面白いです!文章から、その時の情景がすごく伝わってきて読みやすいです!!好きです!応援してます!! (2019年6月2日 22時) (レス) id: 7d886639bb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白梅 | 作成日時:2019年5月15日 18時

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