第8話 子育て奮闘記 ページ10
「貴様、何度言えば判る」
「なんかいもいうってばよ! シャワーだけじゃなくて、ふろにはいれ!」
「否。断る」
Aが任務に就いて、既に二週間が過ぎ、脱衣所でこの会話をして、何時間も経つ。童を一人を育てるのに、これ程の労力を費やす事になろうとは思わなんだ。
「龍兄ちゃん、きたないってばよ」
「二週間入らぬだけで、体に支障はきたさん。僕の事は放っておけ」
「ふーん」
金髪碧眼のナルトが笑う。
「A姉ちゃんにきらわれてもいいなら、そのままでいんじゃね? いつ帰ってくるか全然わかんない姉ちゃんに、すてられてもいーのかなー?」
(芥川。朝食を作ってる間に、風呂に入っておいでよ)
(僕は…)
(熱が下がったから、もう大丈夫。体を拭くだけじゃ、さすがに限界があるし、面接に落ちたくなければ…、ね?)
家主の圧力に負け、用意されたバスタオルを掴んで、脱衣所に撤退する事になった。
「…分かった」
こうして、僕は、二週間ぶりに温かい湯を張った浴槽で、ナルトと共に肩まで身を沈めた。
翌朝、冷蔵庫に常備してあった牛乳やAが作り置きしていた料理を含め、食材が尽きかけている事に気付き、一度それを閉めた。
「買い物に行くぞ」
「おかし、かってもいい?」
「昨日、コンビニで買ったばかりだろう。姉にもらった小遣いを無駄にするな」
「むぅー」
頬をふくらませる幼子の手を引き、スーパーへ寄る。買い物籠を手に取り、手元に書き出した料理の材料を見比べて、麺売り場に行った。
「ちょっと! ウチの子に近寄らないでよ!」
隣の野菜区画で、癪に障る金切り声で叫ぶのは、誰かの母親。その腕に抱かれているのは、茶髪の少年。親子の前で動揺した様子のナルトが居た。
「どうかしましたか」
「保護者なら、化け狐をどうにかしなさい!」
女の目に映る感情は、よく知っている。
憎悪。嫌悪。恐怖。軽蔑。
此の二週間、ナルトと外を歩くだけで、周囲の目が、僕にそう告げていた。
「頭が可笑しいのでは? ナルトは、化け狐ではありません」
幼子の頭に手を置けば、彼は僕の服の裾を、きゅっと引っ張った。小さな手が、微かに震えている。
「だが、これ以上、幼子を冒涜するなら殺す」
「ひっ!?」
一般人の親子は黒獣に怯え、涙目になって、眼前から消え失せた。
世間や周囲の目に屈せず、堂々とした態度で育てるAに感心した。
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作者名:エミリア | 作成日時:2017年1月9日 23時