第５話 紅い月 ページ6
(紅い月は、不吉の前兆だ)
幼い頃、誰かがそう言ったのを覚えている。
確かに、その通りだ。18年の人生の中で、それを３回経験した。
一回目は、父の戦死を聞く一週間前。
(お父さん、なんで？)
葬式に参列した双子の弟が、泣きじゃくる。母は、黙ってうつむき、何も言わない。あたしは、ただただ呆然と父の墓標を見た。
死んだ者は、二度と帰ってこない。現世にも。我が家にも。心にも。
1989年１月16日。父が殉職した。
第三次忍界大戦中だった事もあり、人々の死は、いっそう身近になっていた。
２回目は、父を亡くし、母が狂う３日前。
(痛い！ 放してよ！)
(うるさい！ あんた達みたいな化け物、産むんじゃなかった！)
弟が、母の殴打の餌食になるのを止めるために、あたしは二人の間に結界を張った。
(オサムだけでなく、Aも私に逆らうのかい？ …いいよ。もう『母』の仮面は要らない。あんた達は、不老不死の象徴である鳳凰の力に護られている。双子の血を混ぜれば、誰でも、容易に不老不死になれるんだ。解体して闇市に売る。必ず高値がつくだろうさ！)
初めて見る母の本当の姿に、少なからず怯える弟がいた。
(異能力・『
負けじと、弟と母の間に割りこみ、素早く印を結んで、術を発動。冷静に対応し、敵に集中。
(火遁・業火の術)
たちまち、居間が炎と黒煙に包まれる。弟は、結界内にいるおかげで煙も、火の粉も吸いこまずに無事で、その中から叫び続けた。
(姉さん、逃げて！ 早く！)
数秒後に異変を察知した消防士が来て、水遁で消火作業にあたり、鎮火したものの、実家には一時的に住めなくなった。
1991年４月29日。双子は、母を失った。
３回目は、通称・九尾事件。
誰もが花を手向け、手を合わせた。あたしの瞳に映るのは、四代目夫妻の遺影。
1993年10月10日。尊敬する人を失った。
数日後、一人で木の葉病院に行き、誰もが微笑む中で、たった一人、憎しみの目で見られる新生児・うずまきナルトを見つけた。葬儀の際に、３代目が、皆に人柱力として立場を示したためだ。四代目夫妻の親友・ミコトさんと話をして、踵を返し、火影室に直行。床に片膝をつき、告げる。
(ナルトを引き取り、育てます。『一人の人間として、貴方は大切な存在だ』と教えてあげたいのです)
これ以上、大切な者を失いたくない。
ねぇ、お父さん。もしも、４回目があるなら、今度は何を失うのかな？
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作者名：エミリア | 作成日時：2017年1月9日 23時
