第3話 原因 ページ4
「お。平熱に下がったね」
「やった! 兄ちゃんと、いっしょにあそびにいくってばよ!」
「ナルト。ちょっと待って」
足元で騒ぐナルトに対して、僕の体調を気遣い、優しく静かにさせるA。
僕は、この二人に3日間付きっきりで看病され、服を貸してくれたオサムには、昨日礼がてら出会った。
「芥川。どうやって、この世界に来たんだ?」
穏やかな口調から一転し、問い詰める。
「…敵の爆風に巻きこまれ、海に転落した」
「転落先が、海底ではなく、路地裏か。…他に、思い出した事は?」
熱にうなされていた間、頭に浮かんだ光景。
「…前夜が、三日月だったのは憶えている」
それ以外、何も変わらない夜。
敵を襲撃し、いつも通り撤収するはずが、隊員が撃ち漏らした一人の悪あがきにより、別の爆弾の起爆装置が押され、あまりの風圧に僕が海に転落した事以外は。
「了解。あとは、こちらで報告書を作成した後に、解決策を講じる。それまで、ここにいればいい」
真剣な表情から、ふわりと微笑む様子に、また胸が高鳴る。
「…良いのか?」
「他にアテがあるの?」
「否。無い」
「遠慮しないで、帰れる日まで大いにくつろぎなよ」
こんな時、どう言葉を返すのか判らぬ。
考えた末に出てきたのは、たった一言。
「有り難う」
二人が揃って笑い、僕を快く迎え入れてくれた。
季節は、梅雨。部屋から見えるは、天空を覆う灰色の雲。
3歳8ヵ月のナルトは、血の繋がらない姉のAの手を借りる事なく、着替えを終えたが、肝心の雨合羽を、
「そんなの、きたくないってばよ!」
と腕を振り回して、それを跳ね返し、
「雨に濡れて、兄ちゃんみたいに風邪をひいてもいいんだね?」
「やだ!」
「じゃあ、カッパ着なさい」
「いやだってばよー!」
この時点で、3人で朝食を済ませているが、Aは朝の格好のまま、居間で雨合羽を手にナルトを追いかけ回している。本気を出せば容易に追いつけるが、幼子相手にできないのだ。
「羅生門・叢」
外套を黒き手に変えて、幼子を頭上に抱え上げる。
「ナルト。あまり姉の手を煩わせるな」
「…うん。わかった」
僕は、既に拝借していた別の服に着替え、愛用の黒い外套を纏っている状態だ。
「ありがとう。芥川」
「龍之介」
「ん?」
「名前で呼べ」
気が付けば、そう言っていた。
「わかったよ。龍」
原因は、貴様の笑顔に
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作者名:エミリア | 作成日時:2017年1月9日 23時