第27話 別れ ページ29
「此れからの事を復唱するまでも無いな」
「うん」
Aに手渡した一冊の手帳に、新たな『芥川家』の決まり事等を記しておいた。
「ありがとう。わざわざ手記にしてくれて」
「礼など不要。僕が出来るのは、此処までだ」
我が子の心拍が、木の葉病院の産婦人科で確認された後、祝いと称して甘味処に来ている。
「…今夜だね」
「嗚呼」
我が子の名も掟も決めた。今は、残された時間を、Aとナルトの為に使いたい。
「
細長い茶封筒に入れたのは、財布の中に入っていた全財産だ。微々たる額だが役立つだろう。
「有り難く頂戴致します」
両手で受け取り、それを額まで持ち上げ、お辞儀をする所作も綺麗だと思った。甘味処を後にし、木の葉隠れの里を散策するうち、歩き疲れた様子のナルトが愚図りだす。
「龍兄ちゃん。おんぶ! つかれたー」
手を繋ぐ力が強くなり、最終的に服の裾を引っ張られる。下から聞こえる騒がしい声が、暫く続き、苛立ちが頂点に達した刹那、Aが声をかけた。
「ここが、里唯一の学び舎、忍者学校。通称『アカデミー』。再来年、ナルトも入学するんだよ」
「わあ、すげぇ! おれさ、おれさ! A姉ちゃんと龍兄ちゃんみたいにつよくなって、ぜったい『ほかげ』になって、里のみんなをみとめさせる! それが、おれのゆめだ!」
先程の駄々とは一転し、忍者学校の門と僕達を前に、幼子は胸を張って宣言した。
暗い玄関先で靴を履いている最中、近づいて来る気配が一つ。それは邪気がなく、ふわりと僕を優しく背中から抱き締めてきた。
「…半年間、世話になった」
「こちらこそ、ナルトの世話をしてくれてありがとう。助かったよ。そんな龍に土産がある」
背後に動きがあり、がさりと音を立てて取り出されたのは、1つの紙袋。大きさから本のようだが、声音は嬉しそうに弾む。
「この子の記録を印刷したの。せめて、写真だけでも成長を見て欲しいから」
「嗚呼。後は任せた」
腰を上げた後に新妻と向き合い、立つように促し、抱き締めあった。
「…A。愛している」
「うん。あたしも愛してるよ。龍之介」
触れるだけの接吻も、やがて深く長くなり、口惜しくなる。
「二年後に、必ず会いに行きます」
「嗚呼。約束だ」
紅い月光に照らされ、火影邸の屋上に仕掛けられた術式が浮かび上がる。
1997年12月15日24時。
異世界の生活に幕を閉じた。
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作者名:エミリア | 作成日時:2017年1月9日 23時