検索窓
今日:11 hit、昨日:4 hit、合計:39,116 hit

第27話 別れ ページ29

「此れからの事を復唱するまでも無いな」
「うん」

 Aに手渡した一冊の手帳に、新たな『芥川家』の決まり事等を記しておいた。

「ありがとう。わざわざ手記にしてくれて」
「礼など不要。僕が出来るのは、此処までだ」

 我が子の心拍が、木の葉病院の産婦人科で確認された後、祝いと称して甘味処に来ている。

「…今夜だね」
「嗚呼」

 我が子の名も掟も決めた。今は、残された時間を、Aとナルトの為に使いたい。

()し、僕の世界に来るのであれば、これを使え」

 細長い茶封筒に入れたのは、財布の中に入っていた全財産だ。微々たる額だが役立つだろう。

「有り難く頂戴致します」

 両手で受け取り、それを額まで持ち上げ、お辞儀をする所作も綺麗だと思った。甘味処を後にし、木の葉隠れの里を散策するうち、歩き疲れた様子のナルトが愚図りだす。

「龍兄ちゃん。おんぶ! つかれたー」

 手を繋ぐ力が強くなり、最終的に服の裾を引っ張られる。下から聞こえる騒がしい声が、暫く続き、苛立ちが頂点に達した刹那、Aが声をかけた。

「ここが、里唯一の学び舎、忍者学校。通称『アカデミー』。再来年、ナルトも入学するんだよ」
「わあ、すげぇ! おれさ、おれさ! A姉ちゃんと龍兄ちゃんみたいにつよくなって、ぜったい『ほかげ』になって、里のみんなをみとめさせる! それが、おれのゆめだ!」

 先程の駄々とは一転し、忍者学校の門と僕達を前に、幼子は胸を張って宣言した。


 暗い玄関先で靴を履いている最中、近づいて来る気配が一つ。それは邪気がなく、ふわりと僕を優しく背中から抱き締めてきた。

「…半年間、世話になった」
「こちらこそ、ナルトの世話をしてくれてありがとう。助かったよ。そんな龍に土産がある」

 背後に動きがあり、がさりと音を立てて取り出されたのは、1つの紙袋。大きさから本のようだが、声音は嬉しそうに弾む。

「この子の記録を印刷したの。せめて、写真だけでも成長を見て欲しいから」
「嗚呼。後は任せた」

 腰を上げた後に新妻と向き合い、立つように促し、抱き締めあった。

「…A。愛している」
「うん。あたしも愛してるよ。龍之介」

 触れるだけの接吻も、やがて深く長くなり、口惜しくなる。

「二年後に、必ず会いに行きます」
「嗚呼。約束だ」


 紅い月光に照らされ、火影邸の屋上に仕掛けられた術式が浮かび上がる。

 1997年12月15日24時。
 異世界の生活に幕を閉じた。

第28話 帰還→←第26話 一仕事



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (23 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
28人がお気に入り
設定タグ:文豪ストレイドッグス , 芥川龍之介 , NARUTO   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:エミリア | 作成日時:2017年1月9日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。