第25話 兆候と報告 ページ27
「ただいま」
「御帰り」
夫の声しか聞こえない。ナルトは遊びに行っているのか。
「A。土産だ」
龍と入籍後、早くも1ヵ月弱が経ち、ナルトと共に新居に引っ越して10日が経った。玄関先で差し出された本は、ご丁寧にカバーがかけられていて中身が分からないが、とりあえず表紙をめくる。本の題名は、『初めて母になる方へのアドバイス』だった。
「最近、体調が悪いだろう。念のためだ。やる事はやったからな。…何故、照れる?
入籍当日の夜。排卵日を確認して事に及んだのは、まだ記憶に新しい。それよりも、短期間で、あれだけ体力と持久力がつくとか一体何をやったの。
「あたしも、龍に土産がある。はい、どうぞ」
「…この白黒写真は何だ?」
写真を片手に持ったまま、頭上に疑問符を浮かべる夫に、医者の言葉を、そのまま告げた。
「『おめでとうございます、芥川Aさん。妊娠5週と1日目ですよ』」
「それは誠か?」
「夫に嘘をつく妻は、ここには居ないよ」
目を見開いたかと思えば、次の瞬間には抱き締められていた。華奢な体からは考えられない程、力強く受け止めてくれている。二人の幸せな時間に浸っている時、解錠音から一拍おいて、ゆっくり玄関が開いた。
「ただいま。…龍兄ちゃん、ないてるの?」
「泣いてなどいない」
「ふーん。A姉ちゃん、わるいところ、みつかった?」
「良い所が見つかったよ」
4歳2ヵ月になったナルトは、織田さんが育てている孤児である、桜ちゃん達と最近よく遊んでいる。
「ナルト、チーズ食べてきた?」
「うん。さっ君から、チーズあられを…。姉ちゃん!?」
経緯を説明する途中で、洗面所へ全力疾走。胸焼けのような気持ち悪さを全て、水を流し続けるそこにぶちまけた。それから何分が過ぎただろうか。口内を水ですすぎ、タオルで口元を拭いた後に気づく。
洗面所は、吐瀉物特有の臭いがこもり、窓を全開にして、嫌いな香りだったベリー系の消臭スプレーを噴射し、甘い匂いを撒き散らした。これだけで肩で息をする程、精神的に疲れる。
リビングのソファーに3人が座り、男衆は、エコー写真を凝視する。
「A。赤ん坊は、どれだ」
「この黒い点だよ。来週には心拍が確認できるだろうって。その時に、母子手帳がもらえるんだ」
「赤ちゃん、小せぇ!」
ミナト先生とクシナさんの面影を残すナルトの頭を、2人で優しく撫でていった。
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作者名:エミリア | 作成日時:2017年1月9日 23時