第19話 二人っきりの夜 ページ21
「御馳走様」
「お粗末様でした」
席を立ち、完食して空になった食器を、流し台へ持っていき洗っていく。夕食は、
「あのさ。龍の世界の事、教えてくれる?」
「来る方法も解明されぬのにか?」
「…もし、行けたらの話だよ」
彼女も席を立ち、魚の骨を流し台の隅に備えた、生
「休日に、いつも行く喫茶店があるのだが――」
「ちょっと待って。メモするから」
「しなくても良い。
余程嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべる様子に釣られて、笑みがこぼれた。
「他には、景色が綺麗な場所とか、歴史的建造物を見て回りたいな」
「綺麗だと思った事は無いが、昔から建っている物は多数ある」
目を輝かせるが、『それも全てお預けだ』と返せば、眉間にシワを寄せ、睨まれた。
「住んでいる場所も、所属する組織の拠点も、横浜。中華街と海沿いの景色が有名だ」
「海か。数年前の任務で、行ったきりだな。…まァ。一人で見るより、大切な人と見たほうが記憶に残りやすいし、それまで楽しみにしておくよ」
「すまない」
「気にするな」
快活に笑いながら背中を叩かれて、当然、激しく咳きこみ、Aに謝られた。
普段は、居間のリビングテーブルで向かい合って会話をするが、今日は場所を変え、本屋が併設されている喫茶店同様、ローソファーで隣り合わせに座った。
「A。来い」
両手を広げたら、照れながら背中に腕を回してきて、
「……」
「え?」
無言で抱き抱え、向きを反転させ、
個人差はあるが、
(今は、これで許せ)
すると、お返しとばかりに、熱が集まった表情のまま、手の甲に口づけされた。
「あたしも今、これで精一杯だよ」
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作者名:エミリア | 作成日時:2017年1月9日 23時