第13話 夏祭り ページ15
「…龍?」
「Aか」
8月中旬。花火職人が集う祭りが開催され、今夏の一大イベントだ。
さっきまで紅と一緒にいたが、合流先に龍達がいた。
黒の浴衣に、白の帯。下駄は黒。鼻緒は白。浴衣と同色に合わせるのは判るが、あたしが声を大にして言いたい所は、そこじゃない。
普段見過ごしていた喉仏、手首、足首。露出を控え目にする事で色気が倍増すると小耳に挟んだ記憶はあるが、これほど破壊力があるとは。浴衣、恐るべし。浴衣を開発した人に金を積みたい。冗談抜きで
「手を出せ」
「?」
彼から
「貴様が迷子になったら、捜す手間がかかる。それを防ぐためだ」
すでに会場は盛り上がりを見せ、活気に満ちあふれ、大勢の人でにぎわっている。
「龍が迷子になったら、全力で捜す」
「
「わかった。今夜は、よろしく」
笑顔で言ったものの、内心穏やかではない。
男の人と手を繋ぐ時は、どうするんだ? 普通ってなんだ? そもそも繋いだの、身内と義弟くらいだし。手ェ繋いで隣歩くとか、新手の拷問か。お父さん、助けてくれ!
「絶対離すな」
「うん…」
ただ手を繋ぐだけなのに、くすぐったい感じは。なぜか喧騒は耳に入らず、下駄の音が響いて、心臓が奏でる鼓動が大きく聞こえる。
「A」
「ンッ!?」
緊張のあまり、意思とは声が裏返ってしまった。
「好きな物はあるか」
「…ん。ある」
父が亡くなり、祖母に弟を預け、ナルトを育てているうちに、言動が大人になっていった。だから、祭りの時くらい童心に返ってもいいと、自分に言い聞かせた。
「久しぶりに、
生前、父が弟を肩車をして、あたしを片手でしっかり繋ぎ止め、綿飴を二つ購入してくれた事を思い出し、涙腺が緩みかけた。
「…ここか。一つくれ」
「あいよ。30両ね」
威勢のいい屋台の親父の風貌に似合わず、爽やかな笑みで銭を受け取り、見事な手さばきで綿飴を作っていく。そして、彼は、あたしを見るなり、目を丸くして、こう言った。
「どこの別嬪さんかと思ったら、A嬢ちゃんか! ってェ事は彼氏かい?」
『違います』
「仲良く手ェ繋いでるから、てっきり…」
「綿飴ありがとうございました。失礼します。龍、行こう」
『彼氏』と言われて心臓が跳ね、恋心に気づくまで、あと数時間。
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作者名:エミリア | 作成日時:2017年1月9日 23時