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第9話 宣戦布告 ページ11

「第一部隊、帰還いたしました」
「ご苦労様じゃった。休みに入れ」
「はい」

 梅雨が明け、夏に差し掛かった7月中旬の正午前。
 (やつがれ)の二つ左の席で報告するのは、約一ヵ月ぶりに耳にした声だ。横目で見ると、十歳前後の童達が一人ずつ横に付いていた。

「報告書は、夕方までに提出します。失礼」

 全員が踵を返し、部屋を退室する様子を見、(やつがれ)は、再び事務処理を再開する。淡々と作業をした30分後、左目の上まで亀裂が入った狐の面を被った男・畑カカシが、飄々とした態度で尋ねてきた。

「芥川君。A、知らない?」
「知らぬ」

 一楽ラーメンの後の業務で、此奴(こいつ)にAランクの任務を手渡した憶えがある。

「任務を受け取りに来たのでなければ、退室して下さい。業務の邪魔です」

 暗唱できるまでになった決まり文句を告げても、気に止めず、三代目火影に外出する旨を告げて、任務受付所から退室した。


 苛立ちを募らせたまま外出し、何時も通っている大通りを歩く中で、誰かが嗚咽をこらえながら泣くのが耳に届いた。

『本当に、本当に、ありがとうございました!』
「当たり前の事をしただけです。木の葉に住む者は、皆家族ですからね。坊や。もう、お父さんとお母さんから離れて歩いちゃ駄目だよ」
「うん、ありがとう! 黒猫姉さん」

 黒猫は、西洋で不吉の象徴。日本は、西洋の影響を受ける前まで、幸福の象徴と言われていた。幸と不幸。どちらが我が身に降りかかるのか。(やつがれ)には判らぬ。
 家族と別れた黒猫は、こちらへ歩み寄るが、(やつがれ)の存在に気づいていない。

「A」
「お。カカシ、龍。ただいま」
「おかえり」
「……」

 黒猫の仮面を外したAに、憤りを抱き、体の横に垂らした手で、ぎゅっと拳を作った。

 何故、(やつがれ)に気づかぬ?
 此奴(こいつ)の名を、貴様の声で聞くのも、灰色の瞳に映すのも不愉快だ。
 1ヵ月離れていただけなのに、何故、胸をこうも焦がす?
 Aと居ると、今まで感じた事のない激しい感情に突き動かされ、(やつがれ)が、(やつがれ)で無くなる奇妙な感覚に支配される。
 Aが居れば、この感情が判るのか?
 (やつがれ)は、今、間違いなく弱者で、今は、彼女の裾を掴むだけで精一杯だ。

「A。また無花果(いちじく)のゼリーを作ってくれ」

 今日、小さな宣戦布告をした。

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 芥川龍之介 , NARUTO   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:エミリア | 作成日時:2017年1月9日 23時

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