重力使い、絶賛悶絶中。 《中原中也》

第56話　一族総出 ページ9

「…立派過ぎねェ？」
「あたしも盆にそう思ったよ。…行こう」

　指輪と手土産を選んだ翌週の日曜日。
　日差しが一番強い時間帯に、夏日の気温の中で俺達二人は、タクシーから降車して、立派な塀(へい)に囲まれた日本家屋の更(さら)に前。幅広い石段を数段登った場所にある瓦屋根の門前に立っていた。
　裏庭か、中庭からだろうか。子供達の楽しそうな笑い声が、門前まで聞こえてくる。
　そして、聞き耳を立てていたンだろう。
　タクシーが走り去る間もなく、一人のお爺さんが、玄関を開けて石畳の上を杖をつきながら、格子戸の前まで辿(たど)り着くや否や、それを皺(しわ)だらけの手でがらりと引いて、俺達を両手を広げて出迎えてくれた。

「A、よく帰ってきたねぇ。中原さんも、どうぞお入りなさい。暑かったでしょう」
「ただいま帰りました。曾(ひい)お爺様」
「お邪魔します」

　一礼して、敷地に入る。
　外から見た限りで豪邸に匹敵するが、内部も昔ながらの日本庭園で凄(すご)かった。手入れされた松の木の下を通って、玄関前へ到着する。両親と思わしき中年の男女が、玄関先に真っ先に出てきて、眼前できちんと正座した。

「お父様、お母様。紹介しますね。お付き合いしている、中也さんです」
「初めまして。中原中也と申します。本日はお時間を取って頂き、ありがとうございます。よろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「どうぞ上がって下さい」
「はい。お邪魔します」

　玄関を上がり、既(すで)に大広間に集まってきちんと着席していた、総勢17人の神崎一族と４人の土屋家に、４人の異能を前に、下座にある座布団に着座して、彼らの目をしっかりと見据(す)え、笑顔も忘れずに挨拶(あいさつ)をする。

「改めまして。Aさんとお付き合いさせて頂いております、中原と申します。本日は、お忙しい中お集まり頂き、ありがとうございます。よろしくお願い致します」

　銘々(めいめい)に頭を下げたり、破顔し『よろしく』と云って了承したのを見計らって、持参した紙袋から西洋生菓子(ケェキ)が入った箱を取り出し、Aの父親に直接手渡した。

「気に入って頂けると嬉しいンですが、僕(ぼく)の地元の茶菓子です」

　横浜の菓子に、一族全員が一斉に喜色(きしょく)を露(あら)わにしたのを目撃して、取り敢(あ)えず第一関門を無事に突破した。

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