重力使い、絶賛悶絶中。 《中原中也》

第84話　愛し仔の値打ち ページ37

「昨夜報道された女性の夫は、元軍研究員ですが、Aの実験内容に関わり、異能力者である事を自分の家族にも長年隠していました」
「彼女達、攫(さら)われ癖でもついてるの？」
「傍(はた)から見れば、そう見えてしまいますが、違うと思います」
「だよねぇ。それだけ、『愛し仔』を欲しがる連中が居ると云う事か」

　俺は、首領(じょうし)にファイルを見せなかった。婚約者(かのじょ)が託した相手は、彼ではなく俺だからだ。

「首領(ボス)。今週の土日に休暇を下さい」
「別に構わないけど。如何(どう)したんだい？」
「Aが俺に託した伝言を、実行しなければなりません。英国(イギリス)で、餓鬼共(ふたり)の記憶の欠片が出品された闇競売(オークション)に参加してきます」
「うん、解った。行ってらっしゃい」
「ありがとうございます」

　深々と頭を下げ、執務室で背広を着た部下の留守番をしているAと大我に、部屋で大人しくするように告げて、彼らに『気をつけてね』と云われる。それに笑顔で応え、黒髪を撫でてから別の仕事(こうそう)に出掛けた。軍警に拘束されていたが、今朝脱走した北川剛(つよし)の身柄の奪取は、実動部隊の黒蜥蜴(とかげ)に任せ、拷問は拷問部隊に頼んである。昼飯を求めて腹の虫が鳴った頃、姐さんから報せを受けた。

「餓鬼共が元に戻るまで、生かしておいて下さい。大事な証人ですから」
『あい解った。部下にも通達しておこう』
「ありがとうございます」

　通話を切り、Aと大我の相手をしている部下の電話にかけ、３人分の弁当を出前で取るよう口頭で伝える。妻子持ちの彼が、昼寝用の毛布を調達して欲しいと頼んできたため、それを聞き入れた。再び通話を切り、次の仕事の手配を片耳にかけた小型通信機(インカム)の電源(スイッチ)を入れて伝達する。


　その夜、スケッチブックをテーブルに置いた子供達に就寝するように云ってから、昨夜、手渡された鞄を自室から居間へ移動させ、同封の文庫本サイズの暗号表(コードブック)と照らし合わせて、全ての資料を読破した結果が判明した。
　脳は、異能と通話する受信機の役割があり、黒髪は、制約があるものの万物を隠す。青灰色の瞳の時は人畜無害だが、紅色の瞳は神通力を使用しており、警戒が必須。
　言葉を発せば、愛し仔の意のままに物事が動いて現実になり、血液と涙は治癒にも毒にもなる。

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