重力使い、絶賛悶絶中。 《中原中也》

第67話　首領の許し ページ20

「失礼します。お初お目にかかります。神崎Aと申します。今日は、お忙しい中、時間を割(さ)いて下さって、ありがとうございます。どうぞ、よろしくお願い致します」
「よく来たね。まァ、入りなさい」
『失礼します』

　９月最初の日曜日。時刻は、正午前。
　あたしと中也は、横浜の歴史と伝統ある料亭に来店している。目的は、言わずもがな。森さんと尾崎さんに、結婚の許しをもらうためだが、極度の緊張状態に陥らず、一種の任務だと自己解釈した。着席前に、ポートマフィアの長である森さんに、紙袋に入った状態のまま、両手で手土産を渡す。

「紙袋のままで失礼します。私の地元の和菓子で美味しいと評判で、森さんが饅頭がお好きだと中也さんからお聞きしたので、お口に合うと良いのですが、皆様でお召し上がり下さい」
「有り難く頂戴(ちょうだい)します」

　和菓子と言った時点で僅(わず)かな反応を示したが、敢(あ)えて、気づかない振りをした。彼に着席を促されて、礼を言ってから腰を落ち着ける。水が入ったグラスが運ばれてきた後に、趣味や職業など当たり障りのない会話をして、中也が場を見極め、紹介と結婚挨拶の言葉をまとめて切り出した後、言葉を続けた。

「首領(ボス)。姐さん。今日は、お２人に、Aさんとの結婚の許しを頂きたいと思い、ご挨拶に参りました」
「改めまして、神崎Aと申します。中也さんとお付き合いをさせて頂いております。先日、彼に挨拶に来て頂きまして、両親と親戚共々、とても喜んでくれました。今日は、こうしてお二人にお会いする事ができて、身が引き締まる思いです。中也さんと一緒に、幸せな家庭を築いていきたいと思っておりますので、不束者(ふつつかもの)ですが、よろしくお願い致します」
「うん。此方(こちら)こそ宜(よろ)しくね」
「おめでとう。神崎さん」

　それまで沈黙を保っていた尾崎さんが口を開いて、祝福の言葉を述べたため、反応が一拍遅れてしまったが、笑顔で礼を告げる。その後、途中までは自分の親と同じ質問をしてきたが、次の質問も想定内だ。

「結婚後の仕事は、如何(どう)するの？」
「在籍中の社とは業務形態は似ていますが、知人の伝手(ツテ)で、横浜市内にある商社に勤めようと思います」
「じゃあ、一から覚え直すのか。大変だねぇ」

　中也が事前に予約していたコース料理が運ばれてきて、それらに舌鼓を打ち、談笑していった。

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