第25話 一時的な別れ ページ26
「…落ち着いたか?」
「うん」
一度深呼吸をして、俺を見る灰色の瞳は少しすねていた。号泣した結果、目尻が赤くなっているのも構わずに、凛々しい口調と顔つきで言い放つ。
「あたしも、一言言わせてもらう。ユーリも、背伸びしないで甘えて欲しい。貴方にばかりリードされてたら、女が廃るからね」
「わかった」
聞きたい返事を返されて微笑むAが、自分から手を繋いできた。その動きは、歯車が内蔵されているカラクリ人形みたいにぎこちない。
「あとさ。二人きりの時は、愛称で呼んでもいい?」
「いいに決まってんだろ」
少しずつ積極的になっていく恋人の行動が、単純に嬉しい。
「ありがとう。ユーラチカ」
金色の指輪を優しく撫で、今まで見た事がないくらい、本当に幸せそうな表情を浮かべている。
「嗚呼、どうしよう。まだ宿に送りたくないな」
車の鍵は、Aが持っている。駐車した場所も、歩いてすぐの距離だ。
そんな言い方反則だろ。俺の理性が保てなかったら、雰囲気に流されて確実に押し倒してる。
俺の葛藤を知らずにいるAも、日本語で独り言をつぶやいていた。
「…ここに長くいたら食い損ねるし、名残惜しいけど、愛しいユーラチカをお宿まで送るよ」
《スパシーバ》
《
彼女は、そのまま助手席に乗りこむと思ったのか、後ろをついてくる俺の行動を怪訝な顔をして眺めていた。
「A。少しだけ、頬に触れてもいいか?」
「? どうぞ」
運転席側のドアを背にした後、了承を得て両手で包みこみ、もっちりした肌触りのいい頬で数秒遊ぶ。それで油断させ、額、頬と徐々に位置を下げ、タイミングを見計らって、お互いに唇を重ね合わせた。そこから先は、早鐘を打つ鼓動を落ち着かせる時間も、余裕もないまま、Aは慣れない様子で俺のキスについてくる。建物の照明が上から当たって、恋人の表情がよく見えたが余裕はなく、恍惚としている。視線だけで俺の理性をくすぐるが、鼻先に軽くキスして終わりのサインを示した。
俺の理性が爆発する前に、無事に宿泊先に届けられ、Aのファンの受付嬢に『うらやましい』と言われたのは聞かなかった事にしよう。
撮影のために、福岡から東京に戻る日。
俺は、ミチルを付き添って、Aは博多駅まで見送りに来た。
「グランプリで会おうぜ。A」
「楽しみにしてるよ。ユーリ」
愛情を伝えるために、互いの頬にキスして別れた。
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エミリア1415(プロフ) - 匿名さん» コメントありがとうございます。ロシアに忍がいるとは、一言も書いていません。設定も盛り込み過ぎているとは思いません (2018年3月28日 12時) (レス) id: c808353d76 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - ロシアなのに忍とかあるわけないでしょ。設定盛り込みすぎて意味わかんない (2018年3月26日 16時) (レス) id: 826fa97ab5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミリア | 作成日時:2017年10月9日 22時