第22話 好きな事と罰 ページ23
「忘れ物した」
「え? スタジオに取りに行ってくる」
カガミ家で短時間滞在した翌日。
仕事帰りで、ハイヒールで走り出す態勢に入った恋人を引き留めるために、あわてて右手を掴んだ。
「たいしたことじゃないからいいし、もう見つけた」
「は?」
鈍感な彼女は、バルセロナの時の事を完全に忘れている。だから、それを思い出させるために、くるりと体を反転させて俺のほうを向かせた後、掴んだ右手を自分の左頬にすり寄せた。
「これから、こうやって触れていくの増やしていくからな。場数踏んで頑張るんだろ?」
言われた意味にようやく気づいた様子で、素早く顔をそらされた。
「おい。照れる暇があんなら慣れろ」
「イエッサー」
「俺、軍人じゃないんだけど」
「ごめん。今、動転してる」
「じゃあ、これはどうだ?」
今度は、俺が車道側を歩くついでに、するりと左手を滑らせして指を絡める。そうやって繋ぎ止めて、俺がスケートを続ける原動力の一つが、もうどこにも行かないようにと願い、胸中で『俺の隣にいろ』とつぶやいた。
「Aは、こうやって俺が手を繋いでおかないと、すぐどっか行くだろ」
「そうだね。ごめん」
8年前と同じように隣に縫いつけて、近くのファミリーレストランに向かった。
「彼氏になったのはいいけど、Aの事あまり知らねぇ。つーか、なんの情報も与えてくんねぇじゃん」
「そういう風に育ってきたから。ごめん」
適当に昼食を注文して、向かい合わせになっている奥の席で愚痴った。周りの視線は、二人とも完全に無視している。
「俺に謝るなよ。じゃあ、好きなものは?」
「チーズとグリーンティー。あとは、ストロベリーとビターチョコかな」
「趣味は?」
「趣味か。うーん……」
二人分の昼食がそろってからも悩んでいたから、眼前で手を振るが、そうしても特に反応無し。試しに爪先でこつんと、テーブルの下でAの爪先を軽く蹴った。
「A。チーズハンバーグ、いらねぇのか?」
「ん。いるよ」
やっと現実に返ってきて、ハンバーグを口にして幸せそうな表情を魅せる。こんな顔もするのかと食事をしていく。半分くらい食い終わってから、Aが喋りだした。
「映画鑑賞と筋トレかな。武術で鍛えてきたせいで、今スケートしたら、体の硬さでオタベックといい勝負だ。…なんで不機嫌になるの?」
「他の男の名前出すとか、いい度胸してんな」
俺の彼女だって事を覚えさせるために、いろんな罰を考えた。
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エミリア1415(プロフ) - 匿名さん» コメントありがとうございます。ロシアに忍がいるとは、一言も書いていません。設定も盛り込み過ぎているとは思いません (2018年3月28日 12時) (レス) id: c808353d76 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - ロシアなのに忍とかあるわけないでしょ。設定盛り込みすぎて意味わかんない (2018年3月26日 16時) (レス) id: 826fa97ab5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミリア | 作成日時:2017年10月9日 22時