第９話 王都陥落 ページ10
「素顔を見せたらどうだ、色男。それとも、血液の代わりに水銀が流れているから…、そんな素顔になったのか!?」
手にしていた油の入っている容器を、水路を照らす松明の上に投げつけて割り、激しく炎を燃えあがらせる。すぐカーラーンが対応したが、兄の息は荒い。口元を手で押さえ、呼吸を整える。
「…おぬしら、この小うるさい蚊を叩き潰せ」
「ははっ！」
「俺は、本物の王妃を追う。A、来い」
「ですが…っ!?」
「兄との約束を破るつもりか？」
みしりと手首を圧迫され、言葉に失う。そこに昔の優しさは微塵もない。
「行くぞ」
兄は強引にあたしの手を引いて、確実に王宮へ向かう。ルシタニアの兵士達は、急展開に頭がついていかないようだ。カーラーンを先頭に水路を歩いていく。誰も言葉を交わさず、気まずい雰囲気のまま王宮へ着いた。
「そんな…」
遠目でも分かる。全ての門から火の手が見える。王宮まで濃い煙に包まれていた。万騎長としての使命が自分を駆り立てるが、身内に後ろ手に拘束されては何もできない。
(お前は何もせず、黙って見ていろ)
兄上が耳元でささやき、傍にいる兵に、『女騎士を殺すな。丁重に扱え』と命令した。ルシタニア兵の隊長らしき人物は、警備していたパルス兵を見つけるなり、『イアルダボード神の恵みだ！』と言って、次々に虐殺していく。
「あたしに触れるな！ 汚らわしい!!」
結局、我慢できずに剣を抜き、男の股関を蹴り上げて、腕と胴体を斬り離す。数十歩離れた所で、カーラーンとサームが戦っていた。
「A！ 無事だったか！」
「口を慎め、サーム！ この方は…」
「カーラーン。良い」
「降伏しろ、サーム。イアルダボード教に改宗すれば、命も地位も保障してやる」
「犬が人間の地位を云々するなど、片腹痛い！」
「待て！ サー…」
左胸に槍を受け、彼は、なんとか放った者を視認する。パルスの万騎長に手をかけたのは、無情にも自分の兄だった。
この夜、城下から民の悲鳴が絶え間なく響いた。その惨状を、兄上は魔術師と共に王宮の一角から平然と見下ろす。
「ここまでは予定通りで」
「ああ。餌を与えられた豚は、よく踊るものだな。いいぞ、踊れ。もっと踊れ。今日の勝利を驕るがよい。ルシタニアの蛮人共！」
「…兄上。民が眼下で無残な死に方をしているのに、心が痛まないのですか？」
「民など関係ない。俺達の目的は、王族への復讐だ」
泣かぬ兄の代わりに、あたしは民のために泣いた。
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エミリア1415(プロフ) - お久しぶりです、イヴィさん。季節は冬で、年末のマンハッタン。ベタだな…と自分でツッコミつつ、次の話を組み立てている最中です。 (2016年9月30日 10時) (
レス) id: 37abc421ec (このIDを非表示/違反報告)
イヴィ - キャー\(//∇//)\2人で旅行とは…！これはますます見逃せません！次話での展開楽しみです！ (2016年9月29日 23時) (レス) id: 5980d81e59 (このIDを非表示/違反報告)
エミリア1415(プロフ) - コメントありがとうございます。作者も、ここから話をどう組み立てるのか分かりませんが、最終的にはハッピーエンドにしたいと思います。 (2016年7月5日 22時) (レス) id: 37abc421ec (このIDを非表示/違反報告)
イヴィ - まさかの犯人ダリューン…これは予想外ですΣ（ﾟдﾟlll）驚きのMAXですどうなっちゃうの次話？！ (2016年7月5日 19時) (レス) id: 1461fa90cc (このIDを非表示/違反報告)
イヴィ - ありがとうございます\(//∇//)\凄く楽しみにしてたのでとても嬉しいです！何やら記憶も戻りつつあるようですし次回が今から待ち遠しいです！ (2016年6月22日 23時) (レス) id: 1461fa90cc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：エミリア | 作成日時：2015年7月24日 22時
