第31話 決意 ページ32
「ダリューン。今から出かけるのか?」
「ええ。夕食前には帰ってきますよ。叔父上」
一般人の感覚からすれば、俺の実家は豪邸に相当するのだろう。2ヵ月前にオスロエス様が経営する会社から内定をもらい、息抜きに帰省した。
「行くぞ。シャブラング」
愛馬は一声鳴いて、実家の裏にある広大な敷地を力強く走っていく。黄昏色に染まっていく空を正面に見据えて、俺はある事を思っていた。
来春にはアメリカに帰り、Aお嬢様と殿下と離れてしまう。殿下は、エラムに任せるとして、お嬢様に想いを伝えるには、今しかない。
「…よし。やるか」
自分の決意に応えるように、夕日の光を浴びた首飾りのラアルが、まばゆく光った。
『あ』
後日、たまたま近くのスーパーで買い物をしていた時に、ばったりお嬢様と会った。何から話そうか1人悶々と考えるより早く、彼女からわざわざパルス語で話題を振られる。
《内定が決まったと父上から聞いたよ。おめでとう》
《ありがとうございます。…ところで、護衛もつけずお一人で買い物ですか? 必要な物なら、使いの者に告げればいいでしょう》
《いつも護衛を傍に付けてたら、1人で自立できないと思うの。たまにはいいじゃない》
一見、機嫌を損ねたかもしれないが、長年の経験から、ただ単にそう見せているだけだ。
《ええ。そうですね》
『……』
会話が途切れて気まずくなる前に、冷静さを装い、思いきって尋ねてみた。
《Aお嬢様。年末の予定はありますか?》
《ないけど。いきなり、どうしたの?》
《二人で旅行に行きましょう》
行き先は、マンハッタン。待ち合わせ場所の、ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港でパルス語で朝の挨拶をした後、ぴっと人差し指を立てて、彼女は命令した。
「旅行中、敬語はやめて。それと、『お嬢様』も『姫』もなし。昔みたいに、タメ口で話してちょうだい」
そこで、危うく次の言葉を聞き逃すところだった。
「…そうしなきゃ、せっかく2人きりの旅行なのに、気分が台無しになる」
俺は、あえて聞こえないふりをして、国内線ターミナルのロビーに、Aお嬢様を先導した。予約していたホテルに荷物を置いて、昼間のタイムズスクエアを散策する。
「ダリューン。このデニム、あなたに似合いそう。試着してみて」
「…ああ。わかった」
お嬢様の相手をしつつも、俺は気が気ではない。
告白までのカウントダウンが、刻一刻と迫っているからだ。
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エミリア1415(プロフ) - お久しぶりです、イヴィさん。季節は冬で、年末のマンハッタン。ベタだな…と自分でツッコミつつ、次の話を組み立てている最中です。 (2016年9月30日 10時) (レス) id: 37abc421ec (このIDを非表示/違反報告)
イヴィ - キャー\(//∇//)\2人で旅行とは…!これはますます見逃せません!次話での展開楽しみです! (2016年9月29日 23時) (レス) id: 5980d81e59 (このIDを非表示/違反報告)
エミリア1415(プロフ) - コメントありがとうございます。作者も、ここから話をどう組み立てるのか分かりませんが、最終的にはハッピーエンドにしたいと思います。 (2016年7月5日 22時) (レス) id: 37abc421ec (このIDを非表示/違反報告)
イヴィ - まさかの犯人ダリューン…これは予想外ですΣ(゚д゚lll)驚きのMAXですどうなっちゃうの次話?! (2016年7月5日 19時) (レス) id: 1461fa90cc (このIDを非表示/違反報告)
イヴィ - ありがとうございます\(//∇//)\凄く楽しみにしてたのでとても嬉しいです!何やら記憶も戻りつつあるようですし次回が今から待ち遠しいです! (2016年6月22日 23時) (レス) id: 1461fa90cc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミリア | 作成日時:2015年7月24日 22時