第16話 浴衣選び ページ17
「来週は夏祭りだよ!」
梅雨が明けて、じわじわと体力を奪っていく太陽が恨めしい。そんなちっぽけな人間の思いなど知らずに、相変わらずさんさんと照りつける。日陰がある馬房へ逃げこんだ矢先に、目の前でアルフリードが一人で騒いでいた。
「急にどうした?」
「A。明日は、浴衣を選びに行きなよ。去年行ってないんでしょ?」
「馬術部の馬の世話があったりしたからな。最初の一年は、環境に慣れることを最優先にしたまでだけど。…そうね。提案ありがとう。アルフリード」
「礼なんていらないよ!」
快活に笑ってから、彼女は馬にブラッシングをしていく。あたしは更衣室に着替えに行かずに、アルフリードと話しながら、シロと名付けられた白馬をなでている。
「聞いていい? 行くのは、あたし達4人だけ?」
「まさか! 女子だけで行ったら、ナンパの対象になるもの。だから、男性陣も連れていくよ」
「同じ馬術部で言えば、ギーヴかな。今日は、バンドのサークルで来れなかったみたい」
彼の女遊びは、大学内外でも有名。毎日、女に囲まれても、同学年で同学科のファランギースには猛アタックしている様子。傍から見て、夫婦漫才ともとれる会話に、あたしは内心おもしろがっているのだ。
「そいつも念のために入れて、あとは他の大学の人にも声かけてるから。心配しないで」
「…他の?」
「学習院大学の馬術部だよ」
「へー。ナルサス以外にもコネがあるんだ」
燃えるような濃い赤髪を持つ彼女は、ひらひらと手を振って『違う』と言う。
「ねえ、A。部下達のご子息の進学先、本当に知らない?」
「兄さんなら、学習院大学に進学した。それ以外は知らない」
すると、口を半開きにして、アルフリードは驚きの表情を見せた。
「まあ…。会ってからのお楽しみということで」
「うん。ありがとう」
星涼と浴衣を選んでいる最中に、スマホに着信が入る。相手は、ヒルメス兄さんだ。
「どうしたの? 兄さん」
『来週、一緒に実家へ帰らないか?』
「お誘いは嬉しいけど、もう先約が入ってるの。ごめんね」
『いや、いい。イリーナが会いたがっていたから、Aを誘ったまでだ』
「ありがとう、兄さん」
『ああ』
電話を切り、再び浴衣を選び始める。
「あ。これ、いいかも」
手を伸ばした時、隣にいた少女の手が一瞬だけ重なった。
「エステル!?」
「A!?」
「久しぶり。A姉さん」
弟のアルスラーンと、恋人のエステルが眼前にいた。
42人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エミリア1415(プロフ) - お久しぶりです、イヴィさん。季節は冬で、年末のマンハッタン。ベタだな…と自分でツッコミつつ、次の話を組み立てている最中です。 (2016年9月30日 10時) (レス) id: 37abc421ec (このIDを非表示/違反報告)
イヴィ - キャー\(//∇//)\2人で旅行とは…!これはますます見逃せません!次話での展開楽しみです! (2016年9月29日 23時) (レス) id: 5980d81e59 (このIDを非表示/違反報告)
エミリア1415(プロフ) - コメントありがとうございます。作者も、ここから話をどう組み立てるのか分かりませんが、最終的にはハッピーエンドにしたいと思います。 (2016年7月5日 22時) (レス) id: 37abc421ec (このIDを非表示/違反報告)
イヴィ - まさかの犯人ダリューン…これは予想外ですΣ(゚д゚lll)驚きのMAXですどうなっちゃうの次話?! (2016年7月5日 19時) (レス) id: 1461fa90cc (このIDを非表示/違反報告)
イヴィ - ありがとうございます\(//∇//)\凄く楽しみにしてたのでとても嬉しいです!何やら記憶も戻りつつあるようですし次回が今から待ち遠しいです! (2016年6月22日 23時) (レス) id: 1461fa90cc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:エミリア | 作成日時:2015年7月24日 22時