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記憶の片隅に辛うじて置いてある海を思い浮かべていると、スマイルが少しだけ口元を緩めた。
それはまるで何かを思い出して微笑んでいるようで。
「いつか、行くか」
『海？』
「そう」
『……いいね』
彼は再びノートに手を動かし始めた。
それを見てから私も教科書へと目を落とす。
けれど思考は彼方へ飛んでいて、内容は全く入ってこなかった。
こんな……普通の友人のような……もっといえば恋人のような会話が、愛しくて。
そして叶うことがないのが、切なくて。
『スマイル』
「なんだ」
『この本、持ってみて』
「こうか？」
『そう』
持っていた教科書を閉じて差し出す。
受け取ってくれた側と反対側を持ったまま、今度は空いている逆の手を示した。
『こっちの手、広げてみて』
「？」
スマイルは言われるまま反対の手を広げて見せる。
それに私の片手も重ねようとして……すり抜けていった。
彼が少し息を飲んだ音が聞こえる。
『不思議だよね』
「ん？」
『生きているものには触れないのに、こうした命無いものには触れる』
「……あぁ」
スマイルが手元から顔を上げる。
その瞳と再び目が合うと、今度はお互いになんだかそらせなかった。
彼にも私の言いたいことが何となくわかったのか。
教科書越しにぐっと力が入ったのを感じた。
お互いにそれを持っているのはわかるのに。
お互いにそれには触れられない。
『A、もう一度手を開け』
「ん？」
今度は私がスマイルに言われるままに手を開く。
彼は私のその手に手を重ねる……かのように、空気1枚隔てて手を合わせた。
「触れられはしないけど、Aがいることはわかる」
『うん……』
「小さいな、お前の手」
『スマイルの手は……暖かいね』
昨日の時点では本当に単なる予兆だった。
確信のない、ぼんやりとした感覚だった。
けれどそれが時間と共に真実味を帯びて、じわじわと私を追い立てる。
きっと、私がここを去る日はそう遠くない＿＿
彼に向かって笑ってみせた顔は、ひょっとしたら泣き笑いだったかもしれない。
けれど本当に泣いたところで、私の涙が彼の部屋を濡らすことは永遠にないのだ。
next...
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しらたま。(プロフ) - おださん» おださん初めまして！コメありがとうございます!! 今回は特に高校生らしい純粋さ、真っ直ぐさ、大人への移り変わりみたいなのを意識しているので、そう言って頂けるのは非常に嬉しいです^^！ 駆け足ではありますが、最後までもう少しお付き合い頂けたら幸いです🍀*゜ (3月8日 16時) (
レス) id: a02f9236c1 (このIDを非表示/違反報告)
おだ(プロフ) - (続き失礼します。) この先の結末が別れしかないからこそ言えなかったり、できなかったりすることもあるだろうに、全員で人のためを思って行動できる人をただそういう風に描けるしらたま。様の文体が、一層登場人物の純粋さを引き立たせていて大好きです。 (3月8日 16時) (レス) id: dd244e2324 (このIDを非表示/違反報告)
おだ(プロフ) - 初めまして。コメント失礼します。純粋に真っ直ぐにお互いを思い合って、周りの友人もそんな二人を見守って全力で協力して、お互いを尊重し合っている関係と物語に切なくなります。→ (3月8日 16時) (レス) @page48 id: dd244e2324 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しらたま。 | 作成日時：2024年2月29日 20時
