21 ページ39
✼ ✼ ✼
『あ、スマイル……』
リビングに戻るとAはソファにちょこんと座っていた。
いつもより少し戸惑ったような表情に少しだけ笑いそうになるのを堪える。
が、それと同時に改めて彼女が自分の家にいる事実に、何とも言いようのない感情が胸をざわめかせた。
どうして家に連れてきたのかを、言い訳じみた理由を並べて説明すれば、Aは少し驚いたような顔をしていた。
それでも外の雷がばりばりと慣れば、彼女は少し飛び上がってぎゅっと身体を小さくする。
『ひゃっ……！？』
「やっぱり、雷か」
『さ、さっき皆が帰った後に気づいたの……』
目線を彷徨わせる彼女がいつもよりも幼く見える。
それをどうにかしてやりたくて、それでも俺が出来ることなんてたかが知れていた。
「何か……気が紛れればましか？」
『……た、ぶん』
「分かった。なら少し話でもするか」
せめて、少しだけでも気が紛れるようにと、テレビの音量を少しだけ上げる。
Aは厚いカーテン越しでも光が迸るとぐっと身体を固くして、その轟音に備えるように膝の手をぎゅっと握りしめた。
それを宥めるように、俺にしては随分と優しい声が出てゆく。
……あいつらには見せられないし、聞かせられないな。
「何か話したいことはあるか？」
『……じゃあこの前の続き聞きたいな。1年生の文化祭の時の話』
「あぁ、あの続きな。同じクラスだったなかむが……」
本当はその震える手を抑えてやりたかった。
大丈夫だと、励ましてやりたかった。
時々無意識に動きそうになる手を、はっとして止める。
ただただ、変わらない調子で話し続けることしか俺にはできなかった。
時々、Aが身体を震わせる。
怖いだろうに、それでも時たま俺の話に答えようと、通常の人より幾分も白く見える唇を必死に動かす。
ぎゅっと握りしめた小さな手。
その手を見つめる瞳を、けぶるようなまつ毛が覆い隠す。
俯いた拍子に頬に流れ落ちた髪の一房を払おうとして……やっぱり手を伸ばすことはできなかった。
その透き通る姿の全てが今にも儚く消えそうで。
可哀そうで、可愛そうで……
愛しかった＿＿＿
✼ ✼ ✼
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 103人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「実況者」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しらたま。(プロフ) - おださん» おださん初めまして！コメありがとうございます!! 今回は特に高校生らしい純粋さ、真っ直ぐさ、大人への移り変わりみたいなのを意識しているので、そう言って頂けるのは非常に嬉しいです^^！ 駆け足ではありますが、最後までもう少しお付き合い頂けたら幸いです🍀*゜ (3月8日 16時) (
レス) id: a02f9236c1 (このIDを非表示/違反報告)
おだ(プロフ) - (続き失礼します。) この先の結末が別れしかないからこそ言えなかったり、できなかったりすることもあるだろうに、全員で人のためを思って行動できる人をただそういう風に描けるしらたま。様の文体が、一層登場人物の純粋さを引き立たせていて大好きです。 (3月8日 16時) (レス) id: dd244e2324 (このIDを非表示/違反報告)
おだ(プロフ) - 初めまして。コメント失礼します。純粋に真っ直ぐにお互いを思い合って、周りの友人もそんな二人を見守って全力で協力して、お互いを尊重し合っている関係と物語に切なくなります。→ (3月8日 16時) (レス) @page48 id: dd244e2324 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しらたま。 | 作成日時：2024年2月29日 20時
