17 ページ34
✼ ✼ ✼
重く垂れ込めた黒い雲が夕闇に溶け込んでいく。
月も星も見えない夜はとても昏くて、寂しくて。
そして強い雨音は世界の音を簡単に奪っていった。
加えて、徐々に遠くからごろごろと轟くものが私を脅かす。
少しずつ大きくなってくるそれの正体に思い当たって、忽然と思い出した。
そうか、私は“雷”が苦手なんだ……と。
だからと言って、分かったところでどうしようもない。
ただただ、桜の下に座り込んで小さくなるしかなかった。
どうやら雷は確実にこちらへ近づいてきているようで。
光と音を遮るために、ぎゅっと目を閉じて耳を塞ぐ。
怖い……
かたかたと身体の震えを抑えたくて、でも耳から手が離せなくて。
せめて音が聞こえないように、ときつくきつく抑える手に力を入れていれば。
ふと、雨音の合間に別の音が聞こえてきた。
「＿＿＿、＿＿＿……ぃ、おい！A！！」
『……ぇ……あ、すまいる……？』
「おい、大丈夫か？」
目の前に立つ人物を唖然と見上げる。
その声のかけ方はあの初めて出会った時と同じで。
でもあの時とは違って、声色に心配がにじみ出ていた。
傘をさす彼は、いつもの制服ではなく私服を着ている。
激しい雨のせいでズボンの足元や靴は濡れて濃く色を変えていた。
『な、なんでここ、に？』
「いいから、とりあえず立てるか？移動するぞ」
『え、あ、はい……』
きっと私が動かないと彼も動いてくれない。
そんな気がして言われた通りに立ち上がった。
彼について行こうと動き始めると、彼が傘を傾けてくる。
『す、スマイル？私濡れないから、スマイルがちゃんと使って？風邪引いちゃうよ』
「……気持ちの問題だ。いいから大人しくついてこいって」
何だか今日のスマイルはやけに頑固だ。
有無を言わさないその言い方に大人しく側による。
触れ合う肩がぶつかることなくすり抜ける。
それでも、せめて彼が少しでも濡れないようにと今までのように後ろではなく隣に並んだ。
時たま雷の音が遠くに聞こえて、ピタリと動きが止まってしまう。
そんな私を根気強く待ってくれる彼を見て、震える身体を何とか進めた。
✼ ✼ ✼
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 103人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「実況者」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しらたま。(プロフ) - おださん» おださん初めまして！コメありがとうございます!! 今回は特に高校生らしい純粋さ、真っ直ぐさ、大人への移り変わりみたいなのを意識しているので、そう言って頂けるのは非常に嬉しいです^^！ 駆け足ではありますが、最後までもう少しお付き合い頂けたら幸いです🍀*゜ (3月8日 16時) (
レス) id: a02f9236c1 (このIDを非表示/違反報告)
おだ(プロフ) - (続き失礼します。) この先の結末が別れしかないからこそ言えなかったり、できなかったりすることもあるだろうに、全員で人のためを思って行動できる人をただそういう風に描けるしらたま。様の文体が、一層登場人物の純粋さを引き立たせていて大好きです。 (3月8日 16時) (レス) id: dd244e2324 (このIDを非表示/違反報告)
おだ(プロフ) - 初めまして。コメント失礼します。純粋に真っ直ぐにお互いを思い合って、周りの友人もそんな二人を見守って全力で協力して、お互いを尊重し合っている関係と物語に切なくなります。→ (3月8日 16時) (レス) @page48 id: dd244e2324 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しらたま。 | 作成日時：2024年2月29日 20時
