むっつ。 ページ6
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付き合っていた頃に傘をプレゼントしたことがある。
あれは大学2年生の、やっぱり春のことだった。
「桜雨だね」
「なにそれ?」
桜を散らしてしまう、この時期にふる雨のことだと教えてくれた。
ふたりとも傘を持っていなくて。
雨宿りによった雑貨屋さんで見つけたのは青が綺麗なそれだった。
内側には白い雲が描かれている。
あまりにも熱心に見ているものだから、それが可愛くて。
「買うの?」
「え!いや、いつも折りたたみで長い傘持ってないし」
せっかくなら気分が上がるやつがいいじゃん?
と言う彼女の視線はやっぱりその傘から離れない。
「Aならこっちのピンクとか選ぶかと思ったけど……」
それに彼女はようやくちらりと俺を見た。
そして少し照れた様子で口を開く。
「ん〜と……青ってほら、ワイテでのきんときのイメージカラーじゃん」
「え、それで?」
「やっぱり目についちゃうというか。へへ、いつの間にか青いものが増えちゃうんだよね」
そうやってはにかむから。
可愛いなぁなんて思いながら、その青い傘を手に取った。
「じゃあ俺がプレゼントするよ」
「え!いいよ、誕生日でもないんだし」
「別にそんなに高いものでもないし。俺の色を身に着けてくれるなら俺から贈らせて?」
なんて、少しキザだっただろうか。
言ったそばからちょっとやったかな、なんて思ったが。
彼女は嬉しそうに笑ってありがとう、と喜んでくれた。
2人でその1つの傘に入り、帰り道を歩く。
見上げれば白い雲が広がっており、2人の上だけ晴天だ、なんて肩を濡らしながら笑って。
家に着けば、青い布地に桜の花びらが大量に張り付いており、それを全部落とすのがまた大変だった。
来年も桜の季節に雨は降るだろうか?
そしたらまたこの傘に2人で入ろうか。
夜は彼女に腕枕しながら、そんな話もしたけれども。
次の年。
例年より早く咲いた桜に合わせて降った雨の日に、俺たちは一緒の傘に入ることは無かった……
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雨が徐々に弱まり小雨になってきている。
雲の切れ間から日射しが顔をのぞかせ始めた。
水たまりに光が揺れる。
それを踏みしめながら、前を見てひたすら足を動かす。
もうすぐ君とよく待ち合わせをした駅につく。
君が待っているだろう「いつもの場所」に。
行き交う人の傘がちらつく。
その中に、あの青を見かけた気がした。
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しらたま。(プロフ) - 成瀬 紬さん» コメありがとうございます!曲に気づいて頂けたならとても嬉しいです!! この曲の雰囲気を少しでも感じていただけたなら幸いです。また同じアーティストさんで違う曲のお話も考えているので、ぜひ今後もよろしくお願いします! (1月4日 9時) (レス) id: a02f9236c1 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬 紬(プロフ) - コメント失礼します!やっぱりあの楽曲からきてたか〜!とあとがきを読んでにこにこしております。歌詞がすごくわかりやすく綺麗に噛み砕かれていて、また、オリジナルストーリーとの合わせ方にとても引き込まれました!素敵な作品をありがとうございます! (1月4日 3時) (レス) @page20 id: ef4b6a6fe1 (このIDを非表示/違反報告)
しらたま。(プロフ) - コメありがとうございます!!感想頂きとても嬉しいです^^ 遠回しになり過ぎないように頑張ったので、そう言って頂けると非常に救われます。また桜はまさにその通りですw もう、彼しかいないだろうと笑 番外編もお待ち頂けると嬉しいです✨ (12月17日 21時) (レス) id: a02f9236c1 (このIDを非表示/違反報告)
sigure(プロフ) - あと、桜をモチーフ?にしているのが最近のりすばらを思い出せて最高でした! (12月17日 21時) (レス) @page22 id: 3f19d5a1d6 (このIDを非表示/違反報告)
sigure(プロフ) - とても面白かったです!しらたま。さんの表現の仕方がとても上手でこのお話の世界観に引き込まれるようで最高でした!これからも頑張って下さい! (12月17日 20時) (レス) @page22 id: 3f19d5a1d6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しらたま。 | 作成日時:2023年12月14日 20時