▽ ページ24
✼ 🌸 ✼
「実は……その、捨てられてないものが結構あって……ダンボールに入れてしまったままにしててさ」
そういう彼の目の先を追って気づく。
部屋の隅に置かれたダンボールからのぞいている雑貨。
キッチンのカウンターに飾られたフレームと、それに入っている写真。
よく見れば、ソファの背もたれにかかっているひざ掛けも、見覚えのあるものだった。
「私も一緒だよ。捨てられなくて……捨てなきゃって思いながら、奥に仕舞い込んで見えないふりしてた」
「……そっか」
その優しい響きに、顔を彼に向ければ、きんときは嬉しそうに微笑んでいた。
それに波打つ鼓動が加速する。
改めて好きだと思ったのが、数日前。
そこから今日まで、まるで恋を初めて知った10代の少女のような心臓に、私は困りっぱなしだった。
仕事の間に電話やメッセージをやり取りしていて。
それらは学生時代を思い起こさせると同時に、お互いに大人になった落ち着きを実感していた……と思っていたのに。
どうやらそれは気の所為だったのだろうか。
いや、むしろあの頃よりも時間が置かれて、焦らされて熟しきった恋心は止めどころを見失っているのかも知れない。
内心で、落ち着け!自分!と言い聞かせていると、きんときは「それと……」とおもむろに何かを取り出した。
彼が手に乗せて見せてきたのは小さな巾着だった。
濃紺のベルベットのそれは黒い紐がきゅっと閉めてある。
ただそれには見覚えがなくて。
なんだろうと思って見ていると、彼はその紐をそっと解いて片手で引っくり返した。
ころん、と彼の大きな手に小さなものが転がり出てくる。
それを見て、私は今日何度目かの驚きをもって彼を見上げた。
「きんとき……これ……」
「これも、捨てられなくて……はは、女々しいよな」
それはあの日、私が彼に押し付けてきたペアリングだった。
大学入学祝いに一緒にお金を出し合って買ったそれは、決して高価なものではない。
それでも、それは綺麗な輝きを放っていた。
「嬉しい……捨てられてて、当たり前だと思っていたから」
彼がそのうちのひとつを私の指にはめてくれる。
その懐かしい感触に、少し泣きそうになってしまった。
けれど、それは彼のほうを見て引っ込むことになる。
✼ ✼ ✼
176人がお気に入り
「実況者」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しらたま。(プロフ) - 成瀬 紬さん» コメありがとうございます!曲に気づいて頂けたならとても嬉しいです!! この曲の雰囲気を少しでも感じていただけたなら幸いです。また同じアーティストさんで違う曲のお話も考えているので、ぜひ今後もよろしくお願いします! (1月4日 9時) (レス) id: a02f9236c1 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬 紬(プロフ) - コメント失礼します!やっぱりあの楽曲からきてたか〜!とあとがきを読んでにこにこしております。歌詞がすごくわかりやすく綺麗に噛み砕かれていて、また、オリジナルストーリーとの合わせ方にとても引き込まれました!素敵な作品をありがとうございます! (1月4日 3時) (レス) @page20 id: ef4b6a6fe1 (このIDを非表示/違反報告)
しらたま。(プロフ) - コメありがとうございます!!感想頂きとても嬉しいです^^ 遠回しになり過ぎないように頑張ったので、そう言って頂けると非常に救われます。また桜はまさにその通りですw もう、彼しかいないだろうと笑 番外編もお待ち頂けると嬉しいです✨ (12月17日 21時) (レス) id: a02f9236c1 (このIDを非表示/違反報告)
sigure(プロフ) - あと、桜をモチーフ?にしているのが最近のりすばらを思い出せて最高でした! (12月17日 21時) (レス) @page22 id: 3f19d5a1d6 (このIDを非表示/違反報告)
sigure(プロフ) - とても面白かったです!しらたま。さんの表現の仕方がとても上手でこのお話の世界観に引き込まれるようで最高でした!これからも頑張って下さい! (12月17日 20時) (レス) @page22 id: 3f19d5a1d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しらたま。 | 作成日時:2023年12月14日 20時