【WT】きみは桜【kn】[完]

ふたりの桜。 ページ18

✼ 🌸 ✼




私の大切な人。
だからどうか、前に進んでほしい。

後悔はお互いにつきないかもしれないけれど。
それでも、楽しかった日々、幸せな日々があったことも本当なのだから。

だから、私の大切な人。
どうか幸せに笑って欲しい。

私のそばでなかったとしても……










泣き笑いのまま、ありがとう、と言えば。
彼はぐっと苦しそうな顔をする。
それに声をかけようとする前に、急にきんときが私の腕を引いた。

驚くまもなく、2人の傘が手から落ちる。
ぎゅっと彼の胸に抱え込まれて、行き交う人も、落ちた傘がどうなったかも見えなくなった。


彼の顔を見たくても思ったよりも強い力で抱きしめられていて、身動き1つ取れない。
でも何だかその強さが切なくて。

なんて声をかければいいか迷っていると、耳元で涙にかすれた声が聞こえてきた。



「＿＿、」

「え？」

「……好きだ。今でも……愛してる」



小さすぎる声に聞き返せば、切ない声が震えとともに伝わってくる。
その儚い声にぎゅっと心臓が掴まれたように痛んだ気がした。



「大切に出来なかったことも後悔している……」



そんなに後悔しなくていいのに、と言いたいのに。
どうしても胸がつまったままで言葉が出てこない。



「でもそれよりも、何よりも後悔してるのは……こんなに今も、あの頃も、愛してるのに手を離しちゃったことなんだ」



彼が……今でも……
その言葉を脳が噛み締めた瞬間、ぶわりと体の奥から熱が駆け上がってくる。

彼の震えか、私の震えなのか。
それは寒さなのか、怖さなのか、切なさなのか。



「かっこ悪くても良い。あの時言えなかった後悔をもうしたくないから」

「きんとき……きんときっ……」

「もう一度、俺がAの隣に立っちゃだめかな？」



その言葉に止まりかけた涙がまた溢れてくる。

“私のそばでなかったとしても幸せに笑って欲しい”
それは嘘ではないけれど。


あぁ、本当は。
期待していたくせに。


電話に出てくれるなら。
会ってくれるなら。
話してくれるなら。

心の奥底でもう一度って……




✼ ✼ ✼

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