月の下での幻想【ソーン】 ページ8
音を立てぬよう慎重に廊下を進み、靴を履き、庭へと続く扉を開ける。
夜も深くなってきた時刻だが、満月が昇る空は想像よりも明るい。
微かに風が吹けば穏やかな花の香りが辺りを包む。
はやる気持ちを抑えながら歩みを進めれば、やがて目的地へと辿り着いた。
香りが一層強くなった。
その元を辿って近付けば、暗闇に映える純白の花が咲いている。
幾重にも重なる花弁が印象的なその花はあまりにも美しい。
「……Aさん?」
見とれていた所に不意に後ろから声を掛けられ、驚いて振り返る。
そこにはこれまた暗闇に映える綺麗な銀髪の少年──ソーンが立っていた。
「びっくりした……ソーン君か。起きてたの?」
「たまたま目が覚めたらAさんが外に出て行くのが見えたので……こんな時間にどうしたんだろうと思いまして」
そう言って彼は自分の隣まで歩み寄る。
「わあ……!綺麗なお花ですね……!」
「でしょ?月下美人っていうんだ」
感嘆の声を上げる彼にそう答える。
見た目も名前も綺麗だなんて羨ましい限りだ。
「夏の夜に一晩だけ咲くんだよ」
「一晩だけ、ですか?」
「そう。だから見られてよかった」
ふふ、と思わず笑みが零れる。
貴重なうえにこれだけ綺麗な花なのだから、見られただけで満足感も大きい。
「……幻のようなお花ですね」
そんな呟きが耳に入る。
彼もなかなか詩的な事を言うものだ。
横目で見れば、愛おしそうに花を見つめる彼の姿が目に映る。
淡い月明かりに月下美人の脳が蕩けるような甘い香りも相まって、その光景こそがまるで幻想のように思えた。
ふと、その視線がこちらへ向けられる。
どうかしたのかと問う前に、彼の手がこちらへ伸ばされた。
髪に触れられる微かな感覚の後に引かれたその手を見れば、月下美人の白い花弁。
「似合ってましたので、取るのはもったいない気もしたんですけど」
普段よりどこか大人びた言動と微笑みに、不覚にも頬が熱くなってしまい目を逸らす。
そんなセリフを覚えたのは兄の影響だろうか。
「……ソーン君、なんか最近アダムに似てきたね……」
「本当ですか?えへへ……兄様みたいにかっこよくなれてますかね」
そう言って今度は少年らしい笑顔を浮かべる。
その表情はどこまでも無邪気で、まるで先程の大人びた様子が気のせいだったとすら思えるほどだった。
(もっとかっこよくなれば、貴方も僕を見てくれるでしょうか)
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白鷺(プロフ) - パトさん» こちらこそ、多くのリクエストや激励のお言葉、本当に励みになりました。更新出来ない期間もあった中最後までお付き合い頂き本当に感謝致します。ありがとうございました!! (2022年1月1日 20時) (レス) id: 385719bc4e (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 完結おめでとうございます。更新の度に胸を高鳴らせ、1話1話噛み締めるように読んでいたので、寂しいやら感慨深いやら……。リクエストもたくさん引き受けていただき、感謝しかないです。本当にありがとうございました。作者様のますますのご活躍をお祈り申し上げます (2022年1月1日 16時) (レス) @page49 id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 白鷺さん» 我儘を聞き入れて頂き、ありがとうございました……(o_ _)oパタッ(昇天) やっぱり作者様の描くヒーロー達が大好きだなと再確認しました。たくさん読み返します。本当にありがとうございましたm(_ _)m (2021年12月4日 7時) (レス) @page43 id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
白鷺(プロフ) - パトさん» 大変お待たせ致しました。輪廻さんのお話を更新させて頂きました。久々の執筆となってしまいましたので上手く書けているのかは非常に不安ではあるのですが、お気に召しましたら幸いです。 (2021年12月3日 20時) (レス) id: 385719bc4e (このIDを非表示/違反報告)
白鷺(プロフ) - パトさん» 長らく更新停止している中コメントを頂き本当に感謝致します。小説とは別の創作に於いて大きなイベントがありまして……ですがそちらも一段落しましたので、これから少しずつ再開していきます。輪廻さんのお話、準備を進めております。近日中に必ず更新させて頂きます。 (2021年11月29日 17時) (レス) id: 385719bc4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白鷺 | 作成日時:2021年4月23日 21時