2 ページ19
草木に紛れて無数の淡黄色の光が辺りを漂う。
その光景はあまりにも幻想的で、呼吸すら忘れてしまえるほどだった。
「思ったよりいっぱいいる……！」
「なるほど……これが蛍というものですか」
暑い季節に飛び交う蛍は、雪国で育ってきたアダムには馴染みのないものであろう。
そもそも自分ですら実物を見るのは初めてなくらいだ。
だからこそ、蛍の観測スポットだというこの場所の話を聞いた時に、一度でいいからどうしても見たいと思っていた。
「初めから言ってくだされば良かったのに」
「……止められるかと思って」
「私が同行すれば問題ありませんよ。一人で行かれる方が心配です」
膝元まで伸びた草が歩く度に揺れると、そこから光が舞い上がる。
それがなんだか面白く、そしてどうしようもなく美しく、口元を綻ばせた。
アダムの方を見れば、彼もまたその光景に魅入っているようだ。
彼と自然に繋がれている手からは、この季節には心地の良い体温が伝わってくる。
ふと、視線がかち合う。
彼はこちらを一瞬見つめた後、楽しげな笑みと声を零した。
どうしたのかと首を傾げれば、髪に彼の手が添えられる。
その手をすり抜け、自分の顔の脇の程近くを黄色い蛍が通り過ぎていった。
「失礼、素敵な髪飾りを付けていらしたので」
冗談めかして笑う彼に、自分の顔に熱が集まるのを感じる。
普段は紳士的な態度を取っているかと思えば、時々このように揶揄ってくる事もあるのだから何だかんだで振り回されることも多い。
ふっと、こちらを見る彼の瞳が愛おしげなものに変わる。
細い両の手の指が自分の頬に添えられ、顔が寄せられる。
何がしたいのかを察して、大人しく静かに目を閉じた。
蛍の光が降り積もる中で流れる時間は、どうしようもなく温かくて優しい。
許されるならもう少しだけ、彼と自分だけが知るこの時間に酔いしれていたいと思った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 58人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白鷺(プロフ) - パトさん» こちらこそ、多くのリクエストや激励のお言葉、本当に励みになりました。更新出来ない期間もあった中最後までお付き合い頂き本当に感謝致します。ありがとうございました！！ (2022年1月1日 20時) (
レス) id: 385719bc4e (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 完結おめでとうございます。更新の度に胸を高鳴らせ、1話1話噛み締めるように読んでいたので、寂しいやら感慨深いやら……。リクエストもたくさん引き受けていただき、感謝しかないです。本当にありがとうございました。作者様のますますのご活躍をお祈り申し上げます (2022年1月1日 16時) (レス) @page49 id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 白鷺さん» 我儘を聞き入れて頂き、ありがとうございました……(o_ _)oﾊﾟﾀｯ(昇天) やっぱり作者様の描くヒーロー達が大好きだなと再確認しました。たくさん読み返します。本当にありがとうございましたm(_ _)m (2021年12月4日 7時) (レス) @page43 id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
白鷺(プロフ) - パトさん» 大変お待たせ致しました。輪廻さんのお話を更新させて頂きました。久々の執筆となってしまいましたので上手く書けているのかは非常に不安ではあるのですが、お気に召しましたら幸いです。 (2021年12月3日 20時) (レス) id: 385719bc4e (このIDを非表示/違反報告)
白鷺(プロフ) - パトさん» 長らく更新停止している中コメントを頂き本当に感謝致します。小説とは別の創作に於いて大きなイベントがありまして……ですがそちらも一段落しましたので、これから少しずつ再開していきます。輪廻さんのお話、準備を進めております。近日中に必ず更新させて頂きます。 (2021年11月29日 17時) (レス) id: 385719bc4e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：白鷺 | 作成日時：2021年4月23日 21時
