【wrwrd!】いろは唄戀【短編集】 (ページ8)

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ものや思ふと人の問ふまでページ8

柔らかい初夏の風と陽射しを独占出来る窓辺の列の一番後ろ。
そんな特等席に突っ伏して、数学教師のお経のような解説から逃避した。

ついこの間まで友人とだけしか見ていなかった女友達に、最近気付いたら視線を奪われている。

いや、前から可愛い奴やなーみたいには思っとったけど。他の奴が｢あいつ可愛いよな｣とか言ってんの聞いたら苛立つレベルまでなんて聞いてないで。

こういうの大先生とかシッマとかゾムには知られんようにせんと、あいつら絶対揶揄ってくるし。

特に大先生に至っては、恋愛面で信用したらあかん所くらいしかない。ちょっかいかけそうでほんとに怖いんよな。話したが最後、｢ええ女にしたったで〜｣とかほざきながらあいつの初体験全部奪ってまいそうで。

そんな風にぼんやりと物思いに耽っていたら、いつの間にか寝落ちしてしまっていた。

四時限目が終わり、昼食を食べようと一気に騒がしくなったクラスメイトのざわめきで目が覚める。
寝ぼけ眼を擦り、ぱちぱちと何度か目を瞬かせると目の前には弁当を持ったトントンが呆れ顔で立っていた。

｢シャオロンいつまで寝てるん？はよ飯食いに行くぞ｣
｢おう...食べよ｣
｢お前まだ目開いてへんで｣

今日はグルさんとマンちゃんと大先生が生徒会の役職別の集まり、シッマとロボロとゾムはそれぞれの部活での部会、と言った理由で俺とトントンだけの昼休み。
他愛ない話を屋上で弁当を食べながら二人でしている間も、俺は上の空で何とはなしに特別教室棟の方向を見やっていた。

｢...い、おい、シャオロン｣
｢え、ごめん聞いとらんかったわ。何？｣
｢いや別に大した事やないしええけど...お前どうしたん最近｣
｢別に、普通やで？｣

まさかトントンに気付かれているのか。若干焦ってへらりと笑ってみせるが、トントンの｢ほんまやな？｣と依然として疑わしそうな眼差しが突き刺さる。その視線から逃れようと、俺は弁当の最後の一口を大きく頬張った。