【wrwrd!】いろは唄戀【短編集】 (ページ4)

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くらべこし振り分け髪も肩過ぎぬ/tn ページ4

俺が中学生の時、よく両親の友人夫婦が子供を連れて家に来ていた。
彼女に初めて会った頃、まだ幼稚園に入るか入らないかくらいの歳の女の子は、その日初めて会った俺をいたく気に入ったようで人懐っこい笑顔で｢おにいちゃんあそんで！｣とせがんで来たのを思い出す。
どうやらその子は初対面の人にはかなりの人見知りをするらしく、彼女の両親はあの人見知りのうちの子が、と驚いていた。
会ってその日に｢わたし、とんおにいちゃんのおよめさんになる！｣と言われた時は本気でどうしようか悩んだけどな。

それから1年後。

長く感じた受験期間がようやく終わり、それまで一緒に遊ぶのを我慢してもらっていた女の子の家に行こうと、近道である公園を出た瞬間だった。

目の前で響くけたたましいクラクションと、耳を劈くような急ブレーキ音、衝撃音と共にトラックの影に隠れたちいさなシルエット。
......目を塞ぎ、現実から目を背け、目の前で起こった出来事を事実だと信じたくなかった。

すぐさま周りは野次馬の声やら、遠くから聞こえる救急車やパトカーのサイレンで騒がしくなる。
いつも俺にくっついて｢おにいちゃん！｣と呼んでくれる愛しいちいさな女の子は、痛々しい生傷を幾つも白い肌につけて、ぐったりと目を閉じていた。
抱き抱えて何度も何度も名前を呼び、｢嘘だろ｣という言葉で脳が埋め尽くされる。
救急隊員から声を掛けられても、俺はうわ言のように彼女の名前を呼ぶことしか出来なかった。

結果から言うと、彼女は一命を取り留めた。
打ち所が奇跡的に急所を外れていたらしく、少しでもズレていたら保証はできなかったそうだ。だが、子どもの回復力なら日常生活に戻ることも可能だろう、と。集中治療室から出た医師は、俺や彼女の両親を安心させるようにそう告げた。
その医師の言葉を裏切らず、彼女は順調に回復して行った。

＿その、筈だった。