【wrwrd!】いろは唄戀【短編集】 (ページ3)

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驚き過ぎて瞬きすることしかできない私に、トントンさんは眉を下げて困ったような微笑みを浮かべてごめんな、と謝った。
その微笑みが余りにも切なくて悲しそうで、私は自分の記憶の曖昧さとその儚い微笑みと重なりそうな想い出の欠片に歯噛みする。

何か、何か取っ掛かりがあれば。もう少しで彼との想い出がすべて思い出せそうなのに、記憶に霧がかかったような邪魔が入って思い出せない。

自分の不甲斐なさで、思わず涙が零れる。いきなり泣き出した私を見てびっくりしたのか、トントンさんも困惑しているようだ。

｢ど、どしたん、泣かんとってや｣
｢私、思い出せないんです、トントンさんの事...覚えてる筈なのに...！｣

拳をぎゅっと握りしめ、奥歯を噛んでしゃくり上げるのを抑えている私を、トントンさんは戸惑いながらも抱き締めた。そのまま背中を優しく摩られる。

その感覚も、優しい洗剤の香りも、もどかしい記憶の中にあって、私は雲のようにすり抜ける記憶へ縋り付くように、トントンさんの背中に腕を回した。

筒井つの井筒にかけしまろが丈過ぎにけらしな妹見ざる間に

(筒井戸の井筒とかつて背比べをした自分の背は、君と会えない内に井筒を越してしまった。君は覚えているだろうか、あの日々を。)