さびしからずや道を説く君 ページ11
どうせなら、と教授の邪魔にならないレベルで始めた部屋の整頓が粗方終わって時計を見ると、それなりの時間が過ぎていた。
教授の作業の進捗はどうだろうか、と机の方を振り返ると、あれだけ山を作っていた書類はサインと判を押された状態できちんと揃えられ、ノートパソコンはシャットダウンして閉じられている。
そして、教授はタスクから解放されて気が緩んだのか机に突っ伏してしまっていた。
｢...教授？こんな所で寝たら風邪引きますよ｣
寝ているなら計画は後日にして、ブランケットでも掛けてから帰ろうかと彼を覗き込む。すると、教授が小さく唸った。
｢んん...あれ、Aさん？｣
｢もう、寝るならせめてソファーで寝て下さいよ、教授｣
緩慢な動きで眠たそうに目を擦る教授に頬を膨らませてみせると、彼は困ったような笑顔を浮かべてすみません、と謝る。
ゆらり、と椅子から立ち上がった教授は、そこで初めて数時間前に私が置いたコーヒーに気が付いたようだった。
｢あれ、もしかしてAさんが淹れてくれたんですか。言ってくれれば良かったのに｣
｢だって、お仕事に集中してる教授の邪魔なんか出来るわけないじゃないですか｣
折角Aさんのコーヒーがあったなら、熱いうちに飲みたかったと心做しか残念そうな表情の教授に温かい気持ちが湧き上がる。
｢そんな貴重品扱いしなくても、コーヒーならいつでも淹れますよ｣
｢本当ですか？じゃあこのコーヒーを飲み終わったら、もう一杯お願いします｣
少し目を輝かせた教授は、もう冷えきっているであろうカップを手で包んで傾けた。喉仏が上下し、大事そうに飲み込んでいるのが見て分かる。
ぷは、と至極満足そうにカップから口を離した教授の顔は、やや桜色に染まっていた。いつもは朗々と響く声も柔らかくなっている。
｢美味しかったです、ごちそうさまでした｣
｢いえいえ。それより教授...｣
身体、熱くなりません？
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作者名：鳳仙夏 | 作成日時：2018年1月24日 16時
