第1話 “平凡”の終わり ページ2
まだ眠気の残る頭にガンガンと響くチャイムに、沙霧は顔をしかめた。
「あれー、沙霧もしかしなくても眠い感じ?」
「しょうがないでしょ......夕べは全ッ然課題が終わんなくって......ふぁ」
沙霧はきゃらきゃらと笑いながら話しかけてきた友人、緒方の言葉へ律儀に返答し、一つ欠伸を漏らして机に突っ伏した。
どのくらいそうしていたのだろうか、気付くとホームルーム開始のチャイムが鳴っており、教卓には温和そうな細い銀フレームの眼鏡をかけた担任が立っていた。
沙霧は慌てて頭を振って眠気をある程度飛ばし、見た目だけはしゃきっとしているように表情を取り繕った。まあ、既に若干手遅れな気もするが。
「それでは皆さん、今日は転校生を紹介しますよ」
担任教師の言葉に、教室中が沸き立つ。
ほぼ入学直後の5月に転校してくるとは珍しいとは思いながらも、沙霧とて普通の女子高生並みには心を踊らせた。
じゃあ入って、という教師の言葉とほとんど同時に教室の扉が開いた。
緒方を含めた女子の一部が小さく黄色い悲鳴を上げ、男子の一部が異常に鋭い舌打ちを隠すことなく一斉に漏らした。
美少年。
美少年だった。
艶やかな黒髪は今時珍しく伸ばされており、低い位置で一まとめにされている。
憎たらしいほど白い肌は陶器のように滑らかでまるで人形のようだ。
何より目を惹いたのは、その美しい瞳。
エメラルドのような翠の瞳はきりりとした切れ長気味で、少々目付きが悪く見える。
しかしそれを差し引いてなおの美少年。
沙霧も柄でもなく一瞬見とれた。
「......
美少年......皇 理央はどこか無愛想にそう名乗った。
ホームルームが終わり1間目が始まるまでの間、理央は転校生の定めというやつで男女両方から質問攻めに遭った。
「皇くんってぇ、彼女とかいるの?」
「そんなものいないし作る気もない」
「皇ィ......何食ったらそんな顔が良くなんだよォ......」
「知らん」
理央は女子たちからの若干の下心が混じる質問や、男子たちの質問という名の僻みを正に一刀両断といった印象でさばききった。
そして授業中、つまり現在。
(......なんか、めっちゃ見られてるんだけど............)
沙霧はなぜか、件の転校生に凝視されていた。もちろん身に覚えは一切ない。
沙霧は首を捻りつつも、家に帰ったら兄に相談することを決めた。
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作者名:不知火 | 作成日時:2020年1月21日 21時