山王商店街の住人、だった。 (ページ16)

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風が吹き始めてページ16

…つい思ったことを言ってしまうのは。
空気を読むことができないのは。
僕の昔からの癖で。

結果論から言うと、
なおのことダンやテッツとはギクシャクしてしまった。

でも、一つ良いことがあるとすれば。
少しだけ、コブラと話す機会が増えた…ような気がする。

目の感じが、変わったのだ。

というのも、コブラの実家はガソリンスタンドで。
車は使うし灯油は買うし。
そんな我が家では、結構馴染みだったりして。
(むしろ山王内で馴染みじゃないのを探す方が難しいけれど)

よくおじいちゃんについて、
灯油を買いに行くたびに顔を合わせて居たのだけれど。

いろんな条件が重なって。

ほとんど会わなくなった数年で、彼の目つきはだいぶ変わってしまった。
さみしい、そんな目つきになった気がした。
…強い彼が、そんなこと思うだろうか。って。

よく考えると、僕じゃないのにね。

だけど、部外者の僕が口出しをしてから。
ちょっとばかり、その目線が柔らかくなって。

昔の、例えば公園に行ったら会える友達。
みたいな。
すごく親しい訳じゃないけど、でも。
みたいな。

そんな関係になれた気がして。

イトカンに足を運ぶのも、
もう少しだけ軽くなって。
時々、ランチ食べに行くようになって。

ちょっとだけ、近づけた。気がした。

と、珍しく連休をもらった
休み明けのバイトでハヤトと会話をしていたら。
「よかったね、A!」
あとで俺が一杯奢る!

なんて、自分の事のように喜んでくれた。

そんな会話を盗み疑義してた店長は、
「なるほどね。」
そう笑って、クッキーをくれた。

…うん、餌付けされてません?
僕ペットじゃないですよ?

そう思ったら、顔に出てたのか。

「まあここは甘んじてもらっとけって?」
ちょっといつもの笑顔じゃなくて、
いたずらっ子みたいな顔で笑う店長がいて。

今日も珈琲店は繁盛していた。