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「ほんまにごめん」
「もう二度とほかの女とキスしないでよ」
「俺からはしてへんもん」
「……そういう話じゃないのに」
侑は「わかっとる」と言ってまだ血の味がする唇を私に寄せた。
侑は全然わかってない。
私がどんな思いで貴方に傷をつけているのか。
本当は貴方に傷なんて作りたくないと思っているのに、この傷だけが私に許された権利だということがどうしても仄暗い喜びを私に植え付ける。
私たちは傷をつけて傷つけあって、お互いに相手を傷つけ合うことが当然みたいな顔をしている。
その度に私の心は血を流し、侑の身体には血が滲む。
傷つくだけだとわかっている。
分かっているけれど知らないふりをしているだけなのだ。
きっと彼の傍にいるだけで、私の心はこれから先もっともっと傷ついて血を流すのだろう。
わかっていても、ただただ彼を好きだという本心だけが私を彼の傍に縛り付けている。
「私が侑の身体に傷をつける度に、貴方が私を傷つけたことになるけれど、それでも私は侑と一緒に居たいよ」
「おれがすきなんはAだけやから。それだけは嘘やない」
「……うん」
「ほんまに、ごめん」
血の滲んだ侑の唇に今度は私から口付けた。
二人の唇がちゅ、と音を立てて離れる隙に、彼の唇の傷を舐めあげる。
侑はちょっとびっくりした顔をして「何やねん」と言うから「傷つけてごめんね」と呟いた。
侑は眉を下げて、心底申し訳なさそうな声で「傷つけたのは俺やから」と言って私をきつく抱き締めてくれる。
侑は私に何度も何度も謝るけれど、傷ついた心はちっとも癒えないし、侑は多分これからも私を傷つけるだろう。
侑は私に嘘は言わないけれど「もうしない」とは絶対に約束してくれない。
それなのに、私は確かに不幸せなのに、何故だかどうしようもなく幸せで仕方なかった。
こんなに心も体も麻痺しきって、侑が好きで好きで好きだという感情だけが私を彼の隣に縛り付けているだけなのに。
私はそれでも確かに幸せだと思ってしまっていた。
お互いに傷つけ合う私たちは、傍から見れば滑稽でしかないだろう。
そんなどうしようもない私たちは傷だらけになるとわかりながらも離れられず、お互いがお互いと一緒に生きていくことを選ぶのだ。
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タイトルはフォロワーさんから頂きました。
ひたむきな侑も好きだけどこういう侑も好き。
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つばき - 川西のお話、鳥肌が立ちました。陰のある恋をしてほしいっていうの、同意します…! (2021年2月14日 10時) (レス) id: f1e42d3762 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - リムさん» ありがとうございます! 頑張ります (2019年12月30日 22時) (レス) id: b9479cbc1c (このIDを非表示/違反報告)
リム - 赤葦の物語とっても切なくて涙が止まりません・・・泣 これからも頑張ってください! (2019年12月22日 2時) (レス) id: 7cc2098249 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - 天祢さん» そう言っていただけてうれしいです!個人的にも川西くんのお話が好きなので、刺さってくださる方がいて良かったなあと思います。更新を楽しみにして頂けるとうれしいです。コメントありがとうございました! (2019年12月14日 15時) (レス) id: b9479cbc1c (このIDを非表示/違反報告)
天祢 - 読ませていただきました!勿論全部のお話が素晴らしかったのですが、元々最推しなのもあって川西くんのお話が特に良かったです。深いなぁ…と思いました。更新頑張って下さい!楽しみにしています(^-^) (2019年12月13日 21時) (レス) id: dfbff6b887 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桔梗 | 作成日時:2019年11月16日 13時