潮騒～Sound of Waves～ 6 (ページ10)

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218 どうしようページ10

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「いたって、…にのくんが？どこに」

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テンパって頭が働かない。

だって、廊下にも非常階段にも、誰もいなかったはず。

記憶を掘り起こすまでもなく、近くに人の気配なんてなかったのに。

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「非常階段の横にさ、…銀杏の木が生えてるじゃん」

「うん、」

「その横にベンチあるの知ってた？」

「知らない…そこに、いたの…？」

「うん」

「にのくんが？本当ににのくんだった？」

「間違いなくアイツだったよ。Aちゃん達のすぐ下にあるベンチに座ってスマホ弄ってた。

…ただ、アイツ、イヤホンしててさ。もしかしたら音量次第ではAちゃん達の声が聞こえてないかもしれねぇんだけど、…」

「…逆に、全部、聞こえてるかもしれないのね」

「……」

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どうしよう。どうしよう。どうしよう。

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にのくんに全部話すって決めたのに。

強くなるって決めたのに。

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なのに、あんな智との感情的な会話を聞かれて変に誤解されて、先入観を持たれちゃったら。

私がいくらそのあとで真実はこうだと言ったところで、それをわかってもらえるかどうか。

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にのくんは知ってしまったんだろうか。

私のことをどう思っただろう。

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こんな形で知られるのなら、もっと早く自分から話せばよかった。

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不安が募って、涙が堰を切ったように溢れ出す。

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「まだ、聞いてたって決まったわけじゃないんだしさ…」

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潤くんはそう言いながらも、自分でも聞こえたと思ってるんだろう、

静かに立ち上がって洗面所からタオルを持ってくると、無言でそれを私に差し出した。

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ありがとうの一言も言えなくて、タオルを受け取りながら頭を下げる。

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顔を覆うようにフワフワのそこに埋めると、うちと同じ柔軟剤の匂いがして。

それは私のシーツから香る日常と、その中で起こったをあの日を思い出させて、また泣けてきた。

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潤くんは大丈夫だよ、とか、頑張れ、とかありきたりな言葉を口にしない。

何も言わず、ただタオルに顔を埋めてバカみたいに嗚咽する私の頭を、優しく撫でてくれて。

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泣きながら、思った。

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ああ、潤くんは私がこうして取り乱して泣くのがわかってて、感情を吐き出す場所を確保するために、

わざわざ不特定多数の客がいるカフェなんかじゃなくて、ここに連れてきてくれたんだなって。