潮騒～Sound of Waves～ 6 (ページ13)

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221 いいから来て＊Nino＊ページ13

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『ニノ！！今どこ！！まだ飲んでる！？』

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突然電話がかかってきたと思ったら、ケイコのつん裂くような声。

思わず耳からスマホを離す。

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「…いや、家だけど何だよ」

『家？家にいるのね！？お願い来て！！ゴキブリ！！』

「ハァ？ゴキブリ？」

『いいから来て！！お願いだから！！早く！！』

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そう言うなりブチッと切れて、俺は呆気に取られた。

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「なんなんだよ…」

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ため息をつきながら、仕方なく部屋の鍵をポケットに入れる。

ケイコにはシーズンオフのこの時期に、かなりいい条件のこの部屋を紹介してもらった借りがあった。

だからってわけじゃねぇけど、鼻であしらうことは躊躇われて。

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季節外れのサンダルを引っ掛けて、二つ隣の部屋のインターホンを押す。

そしたらすごい勢いでドアが開いて、ケイコに腕を掴まれて部屋の中に引きずり込まれた。

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「ちょ、オイ、サンダル！」

「あそこ！！お願いやっつけて！！」

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ケイコの指す、人差し指の延長線上。

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飾り棚の上の壁に、テラテラと黒光りするゴキブリが一匹。

触角を不敵に動かしながら張り付いている。

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「あー…」

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なるほどね。

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当然のようにケイコは筒状に丸めた新聞紙を俺に差し出すと、自分は俺の背後に隠れた。

そう言えばこいつ、合宿でゴキブリが出た時も生死にかかわるかのような大声を出したっけ。

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「…仕方ねぇなぁ」

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正直さ。

実をいうと俺も、そんな得意分野じゃねぇんだけど。

かといってそんなこと言える状況でもねぇから、渋々新聞紙を振り上げてヤツに近付いてった。

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「おっ！」

「キャーーーーーー！！！」

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恐々だったのがヤツに伝わったのか、俺が叩いたとこはヤツからほんの数センチ外れてて。

ヤツはこれ見よがしに羽を広げて、バカにするみたいに勢いよく俺たちの方へと飛んできた。

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俺はすかさず屈んでヤツを躱したものの、パニック状態に陥ったケイコの振り上げた手が、棚にぶつかって。

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その弾みで、そこに飾られたアンティーク調のランプや写真立てなんかが床に落ちて、派手な音を立てて割れた。

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その隙に、ヤツは悠然とその棚の後ろに消えていく。

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俺たちは、ただ呆然とそれを見ているしかなかった。