約束は口付けで【ベン】 ページ27
いってらっしゃいな、土産話を携えてから、敷居を跨いでおくんなんし
あっちのことはお気になさらず、風の向くまま、波の立つままに行きなっせ
だって旦那は海のお人、こんなところで燻ってちゃあ宝の持ち腐れ
安心しなっせ、あっちには旦那しか居りませぬ……旦那の唇、信じておりんす
ーーーーーーーーー……
釜戸に火を焚きながら昔のことを思い出す
あれから７年の年月が過ぎたけど、格子戸から覗く空はあの日のまんまで変わりゃしない
「かか様〜帰ったよ〜」
『何だいウミネ、今日は早いじゃないのさ、夕餉までまだかかるよ』
「じゃあ！ねえさんがこんぺいとうくれたの食べていい？」
『しょうがないねぇ、少しにしておいで』
「やった！あ、それとねかか様、ねえさんが……」
『言わずとも分かるよ、あっちは座敷には戻らん、全くウミネにまでそんなことばかり』
「でも、かか様はきれいなおべべ、着たくないの？」
『あんなもん、動きにくいだけさね、あっちにはお前が居ればそれでいい』
鍋に蓋をして囲炉裏に当たればようやく一息
嬉しそうにウミネが広げる菓子箱から水色の金平糖をひとつまみ
こりっという音とともに甘さがやんわりと口の中に広がる
「何でかか様は、いっつも水色をえらぶの？」
『ん？海の色に似てるから、かねぇ……』
「かか様は海が好きなの？」
『そうさねぇ……それよりウミネ、そこの風呂敷あけてみな』
「これ？……わぁ〜！これ、どうしたの？」
『ウミネの７つのお祝いさね、着せてやろうか？』
「うん！ありがとうかか様！」
『ふふっ……ほら、じっとしなっせ』
選んだ着物は薄水色に赤い小鳥が羽ばたいていて、袖の袂には桜が舞う
７つのウミネには少し大人びているかとも思ったけど、親の欲目を抜いてもよく似合っていた
着つけた後にはくるくると回り、笑顔を見せる我が子にあっちの口角も自然と上がる
『よく似合ってるよ、釜戸の火も消えたことだ、散歩にでも出てみるかい？』
「行こう行こう！そこの浜まで行こう！」
『こら待ちな！なら羽織も着なっせ、日暮れの海辺は冷え込むっ……』
言うが早いか既に外へと駆け出す愛娘に笑みとため息が同時に零れる
煙管を吹かせて小さな羽織を片手に表に出ると、はらりはらりと雪が舞う
目の前の海と相まったその風景が、あの日の思い出を連れてくる
to be continued……
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しゃらん。(プロフ) - コメントありがとうございます！！短編の方が中々更新できてなくて……でも好きだと言っていただきめちゃくちゃ嬉しいです！！またサッチでも書きますね！！これからもよろしくお願いします！！ (2022年7月3日 8時) (
レス) id: b3a781ffa5 (このIDを非表示/違反報告)
あや(プロフ) - この短編種本当に好きだけど、サッチが出てくるとは思ってなくて、心の準備してなかったから普通に死にそうっす、更新とサッチの書いてくれてありがとうございます！ (2022年7月3日 4時) (レス) @page40 id: 95a1685357 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しゃらん。 | 作成日時：2022年4月22日 15時
