♭♭１５ ページ15
．
放課後、一織用さんと2人きりの屋上。少し向こうを見渡せばこんな校舎より高い建物がいくつも立っていて屋上と言えどそれほど高くは感じない。青い空は雲の隙間から少しだけ見えている。曇りのように見えるこの天気を気象庁は晴れと定義するらしい。会話が進んでいく間に雲は形を変えていく。これが恋愛漫画の中の主人公と意中の相手が喋る屋上の空ならばもっと青いのだろうか。
雑談をしていればまるで独り言のように一織用さんは零した。
「あれってほんとなのかな……。」
あれというのも四葉さんの件だろう。真隣にいるのになぜだか離れてしまったような気がするのは心の距離かもしれない。
「環も休みだし、ラビチャだと聞きにくいし……」
「あんな噂信じなくて良いんですよ」
隣を向けば目線が交わった。一織用さんは少し驚いたような顔をしてまた下を向く。
「でも……」
「四葉さんは噂の彼女を振ったんです」
悲しそうに呟く一織用さんの言葉を遮って本当のことを告げる。
「うそ……」
彼女は息をのんだ。
ぽた。
水滴が瞳から零れ落ちて制服のスカートに溶けて消えていった。
「あんなの……、絶対、ほんとだって思うじゃん……」
もう一滴が落ちて制服に染みていく頃には、つたーと流れ出し始めてしまう。
「ごめんっ」
彼女の肩がわずかに上下して嗚咽をこらえようとしているのがわかる。
肩を抱き寄せようと後ろに回しかけた手を堪えて私はズボンのポケットからハンカチを取り出した。
「使ってください」
彼女の方を見るのが申し訳ないようで気恥ずかしいようで前を向いたまま渡す。
「うん、」
彼女はそれから暫く静かに泣いていた。それが安堵の涙なのか、他の感情から来るものなのか、それとも全てを混ぜ合わせたような感情のせいなのか、答えは見つからなかった。ただわかるのは、気持ちが抑えられなくなってしまったことと、もしかしたら私に少しは気を許してくれているかもしれないということだけだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 70人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：汐見 | 作成日時：2020年5月15日 18時
