一織くんとおいしいプリンの作り方。 (ページ13)

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これが恋なのだと気付くのにそんなに時間は要さなかった。

放課後の図書室、台本を読み返す。今なら私の演じる彼の気持ちも少しはわかるような気がした。

「一織くん、お待たせ！」

勉強を教えて欲しいと頼まれた私は一織用さんを待っていればいつも通りそう笑顔で声をかけてくれる。

「ここ、なんだけど……」

彼女の少し困ったような表情、

「一織くんの説明ってほんとわかりやすい！先生になれるんじゃない？」

いたずらっ子のように笑う顔、それら全てが可愛らしい。彼女と話す時に緊張するのは女性と、特に同級生と、喋り慣れていないからだと思っていた。それは違うらしいということも分かった。何よりマネージャーは一つ上の女性だし今回の映画のヒロイン役の方と喋る時も気持ちにいつもと違いはなかったからだ。

「今日環がね、」

一織用さんは聞きたいことをある程度聞き終わったようで雑談を始めた。四葉さんのことを楽しげに語る彼女は幸せそうに見える。

「良かったですね」

少し前までであれば本心から言えたその言葉も今は違う。この気持ちは嫉妬と言うらしい。言葉こそ知っていても予想より遥かに胸を締め付ける感情なのかと驚きさえ感じる。

「全部一織くんのおかげだよ、ありがとう」

そう言って笑顔を見せる彼女。その気持ちが私に向いてくだされば良いのに。四葉さんよりあなたを分かってあげられるのに。

「そんなことないですよ」

荷物をまとめながらそう答える、本心ができるだけ漏れないように。

「勉強とかも含めてほんといろいろ助かってるよ！今日はありがと、じゃあね」

一足先にまとめ終えた彼女は言い残して席を離れた。

「……ではまた」

図書館の扉を開くときに私の方を向いて微笑みながら手を振ってくれる。

そんなことするなんてずるいじゃないですか……。