Vanilla【YG】 (ページ8)

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幸せな気持ちで眠りについた。
時間がたっても、幸せな気持ちになれた事実は消えない。
まだコーヒーの香りがするようで、二人の笑顔が浮かぶようで。

「んー…」

布団をかぶり直す。

「なーんか、ちょっと怖いひと」

私以外誰もいない暗い部屋に呟いた。

怖いひと、ユンギさんだ。

笑顔はコーヒーの苦味が吹っ飛ぶくらいに甘くて可愛らしいのだが、どこか頑固そうで、こだわりが強そうな印象。

それでもとてもいい人なんだろうけど。

人の顔を見ると、その人の性格や気持ちが無駄に分かってしまう気がする。昔からの私の性質だ。

それでなかなか生きていきづらいこともあったりして。

まあそれはどうでもいいのだけれど、ユンギさんはどこか儚くも見え、芯があるようにも見え、結局何が素顔なのかわからない。

そこで、私は思い出す。

ただのカフェの店員さんじゃないか。
カフェ店員になんて今まで何回会ってるのだろうか。そしてその店員さんのことがこんなに気になったこともない。

今までの店員さんはあくまで私の見ている世界の「風景」だったけれど、きっと、あの二人は風景では止まらないのだろうな、と直感的に思う。

なぜこんなに頭に浮かぶのかはよくわからないが、きっと、きっと、

幸せをくれたからなのだろう。

身近なところにこんな幸せがあって、見落としていて。

なかなか見つけられなかった「幸せ」は、ああやって休まないと見えないものなのかもしれない。

あの滞在時間だけで私の人生は「良い」方の道へ傾いたのだ。

あの笑顔をもう一度思い出し、私は意識を遠くへ投げた。

また平日やり過ごして、あそこに行こう、と心の中で確認する間もなくそう思っていた。

Orangeの花言葉の意味を、また受け取りに行こう。