Vanilla【YG】 (ページ3)

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春の日差しは心地がいい。

高鳴る気持ちのままに、せっかくならと、私は今まで曲がったことのない道へと曲がってみた。

「お腹空いたな」

人の少ない路地で呟く。
時計を見るとおやつの時間。
この辺に何かそういうお店はあっただろうかと思ったけれど、何一つわからない。とても情けない。
普段如何に内容の薄い日々を過ごしているかがわかり、ちょっとだけ悲しくなった。

検索をする気にもならず、ぼーっと知らない道を歩いている、その時だった。
「ん、」
優しい匂いがした。

「コーヒーだ」
やわらかく香る、香ばしい匂い。
私はコーヒーの匂いが大好きだ。
人がコーヒーを淹れてるときの匂いが好きで。
ちなみにブラックは飲めない。飲まず嫌いだ。

好きな匂いに足を止め、あたりを見回すと、そこにはちょうど私が求めていたものがあった。

［Cafe Orange］

と書いてある看板のついた、小さなカフェ。
茶色い壁の四角い小屋に、妙に惹かれた。
ドアにはOPENのプレートがさがっており、メニューの書かれた小さな黒板がそばに立っている。

カフェ、オレンジ。
丁度いい。何か食べよう。家の近くにあるのに知らなかったから、いい発見だ。

太陽に照らされるその小屋のドアを、私は静かに開けた。ドアについているベルが鳴る。

さらに強くなるコーヒーの香りを深く吸い込む。
中に入ると3つのテーブル席とカウンター席があった。外見通りの小さなカフェだ。
カウンターの中には店員と思われる二人の男の人がいて、私が開けたドアの音に反応し、こちらを向いた。

「いらっしゃいませ！」
「いらっしゃいませ」

そう言った二人の男の人は、片方はにこにこしてこちらを見つめる愛嬌のある可愛らしい人で、もう片方はすぐに目を逸らしたちょっぴり無愛想な人だった。

私はその場で立ち止まってしまう。
初めて感じるような、衝撃に近いこの感情。

二人とも整った顔をしている。なぜ私以外客がいないのかがちょっと不思議だが、近くに住んでいる私も見つけられていなかったカフェだと思うと、なんとなく腑に落ちる。

「お好きな席へどうぞ」
「あ、はい」

身長の大きい愛嬌のある方の人にそう言われ、私はやっとまた動き出した。

突然正体不明の幸せに包み込まれたその瞬間、私は明日のことなど全て忘れていた。

「メニューこちらになります」
今度は無愛想な方の人が私にメニューを差し出す。

いつもの休日の中。これが、私と二人の出会いだった。