思春期に中指を【95's】 (ページ2)

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くっそねみー、と思いながらイヤホンを耳に入れた。

「げっ」

音量の設定を間違えていた。爆音で音楽が耳をつんざく。
ちょっとおしゃれな気分。
日常の中で、何気にこういうどうでもいい瞬間が幸せだ。
周りの子が聴かないような音楽を聴いているときの優越感。
趣味が合わないのはたまに不安の材料になるんだけども。別にいい。
どこか、吹っ切れた日常。
適当にやり過ごして、夜ふかしして、居眠りしかける。

わりかし今日は気分がいい日だけれど、時間割が最悪だったことに気づいて、少し歩くのが遅くなった。

細かった道を抜け、いつもの大きな通りに出る。このタイミングで曲が変わった。
世界の色がまた新しくなる。

「よっおはよっ」
イヤホンを外しながら、バス停にいるジミンに声をかけた。
2曲目の途中だった。

「おはよ、早いね」
「ジミンもな」
ジミンはスマホを片手でいじっていたが、ろくに文字を打てていなかった。

「おとなしく両手でやっといたほうがいいぞジミナ」
「黙っといて」
「テヒョンは？」
「寝坊だって朝カトク来てたけど多分ダッシュでバスに間に合わせてくると思う」
「りょー」
屋根のあるバス停の下にいるのは、私とジミンの二人だけ。無言の空間も、私にとっては苦痛ではない。
バス停の広告に載ったアイドルの顔を見て、自分の顔が嫌になったあたりで、リュックが上下する音が右後ろから聞こえてきた。

「おっふぁふぉ〜〜！！！」
「パンくわえながら走ってくる人私生まれて初めて見た」
「流石にテヒョンもしないだろってことをよくやるのがテヒョンだよねホント尊敬する」

がちゃがちゃ音を鳴らして走ってくるテヒョンは、漫画で見るほど大げさにくわえていないけれど、パンが口からはみ出している。
テヒョンはいつもどこかおかしいが、今日は結構な方だ。面白い。

今日の天気、と検索窓に入力していたジミンが口を開いた。
「今日午後から雨だって」
「体育中になるといいな」
「私傘あるけど、テヒョン傘ある？体育嬉しいのはわかるけど」
「…ないから降ったら入れて」

「噂されたらテヒョンのせいってことで」

そう言ったけれど、バスのやってきた音で掻き消されてしまったのか、それとも文脈で返事はいらないと判断したのか、テヒョンから返事はなかった。

バスに乗り込むと案の定席は埋まっていて、いつもの場所に3人並んで立つ。つり革を掴む前にバスが出発し、転びかけた。

今日の始まりを告げるように、バスのエンジン音が鳴った。