19.空っぽ ページ19
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鞄とコートを身に纏ったまま、手前の席に腰を下ろした廉。その手は、クリスマスのあの手袋で覆われていた。
永瀬「なんで先行ったん?」
「・・・別に?気分?」
ヘラヘラって。不器用に口角だけを上げると、廉は明らかに不機嫌そうな顔をして。小刻みに揺れる膝に、それは露骨に現れている。
永瀬「はぁ?なんやねんそれ・・・大体、先行く時は連絡くらいしろって、」
「そんな約束だっけ?・・・あはは、ごめん。忘れとった」
空笑いばかりの私に、膝を揺する速度を上げた廉。
私達の会話を聞いたのか、隣側でペンを止めたなっちゃんが顔を上げたのが見えた。
「じゃあ今のうちに言っとくね。うち、明日から一本早い電車で行くから」
永瀬「・・・いつまで?」
「え、いつ?はは、いつまでやろ?」
永瀬「・・・じゃあ俺も、明日から同じ電車にする、」
「え?なんで?」
永瀬「なんでって・・・Aがその電車にするから、」
「うちに合わせる意味ないやん?」
やめてよ。今更。
必死の決心を、鈍らせるようなこと、言わないで欲しい。
廉に止められたら、私。
ちゃんと、諦め切れる自信なんて、なくなっちゃうよ。
なつ「A!できたよ、ありがとう!」
ば、と勢いよく体を起こしたなっちゃんが、私と廉の間に生まれた不穏な糸を断ち切るように笑って。
先に目を逸らしたのは、私だった。
出来上がった自分の課題とペンケースを持って、なっちゃんが立ち上がる。反射的に顔を上げると、目が合って。困ったような笑みを返された。
なつ「じゃあうち、戻るね。永瀬もほら、先生来るで」
そんななっちゃんの言葉にも、廉はまだ納得のいかないような顔をして。
数秒後。先生が教室に入って来ると、ようやく自分の席に戻って行った。
立ち上がって背を向けた、廉のその目に、私が映ることはなく。
やっちゃった。って。
ただそれだけ、呟くことも、呼び止めることも出来ずに、大きな背中を見つめていた。
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紀衣 - 夏(なの)さん» わーー!待っていて下さってありがとうございます!コメントすごく嬉しいです!訳あってゆるゆる更新になりますが見届けていただけたら嬉しいです…(>_<) (2018年12月12日 23時) (レス) id: afbfeebc90 (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - 待ってました。久しぶりの更新とてもうれしいです!! (2018年11月18日 13時) (レス) id: d826207ec4 (このIDを非表示/違反報告)
紀衣(プロフ) - 夏(なの)さん» たくさん感想ありがとうございます!すごく嬉しいです!切なさだったり、廉くんのリアルさ(笑)だったり、気をつけながら書いていた部分に気づいて頂いてすごく有難いです!拙い言葉ばかりですがこれからも応援して下さると嬉しいです!マフラーもぜひ買ってください!笑 (2018年1月14日 17時) (レス) id: cdb8449478 (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - メインの廉くんが、リアルで凄いと思います!廉くんの細かい所まで表現されているし、それに出てくるボキャブラリーが半端じゃないです。とても読みやすくて…!なんかマフラー欲しくなってきました(笑)更新楽しみです。頑張って下さい! (2018年1月14日 8時) (レス) id: 5d55c4341d (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - 初コメ失礼します!前作が気になって読ませて頂いて…とてもドンピシャリで!!Twitterもフォローさせて頂きました!最初はあいくるしい。って束縛とか、そういう系なのかな?と思っていましたが切ないお話で………きゅんきゅんと言うよりも染みると言うか…↑に続く (2018年1月14日 8時) (レス) id: 5d55c4341d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紀衣 | 作成日時:2017年12月30日 20時