稲荷崎の名物マネージャー【HQ】

頑張り ページ6

KITA


俺とAの出会いは1年の頃、放課後の体育館。



クラスは一緒やったけど、席は隣やあらへんし喋ったことなんてなかった。




『北くん、やんな？』




北「そやけど。知っとるんやな、俺のこと」




『そら、知っとるよ。同じクラスやん。北くんは、私のこと知っとる？』




北「宮さんやろ。」




『おぉ。なんや、知っとるやん。』




北「俺のことなんやと思ってんねん」




『いや、北くんって他人に興味なさそうやん』




北「失礼やな」




第一印象は、失礼な奴。




『すまんて。で、北くんは体育館で何してんの？』




北「バレー部に入部届出し行こう思うて」




『北くん、バレー部なん？！私もやねん！一緒、行こうや！』




北「？ここ男バレやで？女バレは向こうや」




『私も男バレ！マネージャーすんねん！』




北「バレーやっとったん？」




『中学で少し！』




何が中学で少しやねん。




中総体でベストサーバー獲ったって、エースやったって、後からアランに聞いたで。




Aには、“エース“っていう肩書きがとてつもなく重かったんやろな。





『ホンマ、北くんのプレー丁寧やわぁ。』




北「やることやってるだけやで。なんも変わったことやってへん」




『やることを“ちゃんと“やってんのが、すごいって言っとるんや。』




北「そうか？」




『そうや。』




北「ずっと気になっとたんやけど、なんで女バレ入らんかったん？」




『…う〜ん、疲れたんよ。“天才“って言われるのに。』




俺は何も言い返せんかった。




『別にバレーボールしたくない訳やないねん。私、上手いで？中総体でベストサーバー獲ったし』




北「知っとる。アランに聞いた」




『なんやアイツ、勝手に言いやがって！！…でも、元々上手かった訳やない。誰よりも残って練習したし、雨でも雪の日でも走って筋力付けたし、努力した。私、天才やないんよ。』




そう言ったAの顔は、酷く苦しそうやった。




『“アンタは天才やからええな“とか、“私はアンタみたいに天才やないから“とか、ずっと言われてきてん。もう、嫌やねん。誰も、私の頑張りなんて見てへんねん。』




北「誰かが見とるよ。」




『え？』




北「お前の頑張りは、誰かが見とる。」





少なくとも、俺はお前が頑張ってんの知ってんで。




高校からやけどな。

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