176. ページ42
たった二文字ですら、幸村には紡げない。
どんなに唇に添えても、それが声にはならない。
「Aは、俺たちといて楽しい？」
なぜならそんな感情さえ凌駕するほど幸村はどうしようもなくAの笑顔が見たいのだ。
薄っすらと笑みを浮かべて、指先を繋いだまま、幸村は問いかけた。
水のようにスルリと零れた言葉たちが、透明なまま、彼女に届く。
「楽しいよ、すごく」
噛みしめるようにそう言ったAだったが、幸村は言葉だけではどうしようもなく不安で、確かめるようにじっと透き通る瞳を見つめた。
その色に嘘はない。
それでも幸村は満たされなくて、器から溢れた想いが堰き止められることなく声に乗った。
「海、退屈じゃなかったかい？」
「全然。かき氷も食べれたし」
『かき氷！』
海で叫んだ自身の声が、Aの中でやけに響く。
「学校帰りのクレープは？」
「みんなの好みがわかって嬉しかったかな」
『学校帰りにクレープ食べたい』
またしても、自身の口にした言葉が木霊する。
その違和感に、Aは気付いた。
「さっき食べた焼きそばは？」
「……おいし、かったよ」
『屋台の焼きそば食べたい』
じんわりとAの瞳に涙が滲んだ。
あまりにも温かすぎて、優しさ過ぎて。
「よかった」
『花火、見たい』
欲しいものも見たいものも行きたい場所も、全部全部、Aが口にしたことで、全部全部Aが何より欲していた“普通”で、全部全部幸村の溢れんばかりの優しさだった。
「せ……いち」
何故、気づかなかったのだろう。
Aは自分に問いかける。
そして、優しさの理由を求めるように幸村を見上げた。
「どうして……どうしてそんなに優しいの」
落ちてきそうなくらいに輝く星たちが2人の背中に影を作る。
繋がった指先のどちらかが、ひんやりと温度を下げた。
「君は大事な友達だから」
Aはそっと胸を撫で下ろす。
だから気付いていなかった。
友達だと告げた幸村の端麗な笑顔が悲痛に歪み、浮かんだ雫が密かに風に乗っていたことを。
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SHINO(プロフ) - スノウさん» スノウ様！いつもコメントありがとうございます。スノウ様のコメントは本当に何度も読み返してはニヤけてしまって、とても力をいただいています。そうですね、私も主人公の気持ちをやっと書けたので嬉しいです。笑 どうか最後までお付き合いください。 (2017年4月20日 15時) (
レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - 雪さん» ありがとうございます。気をつけている事に気付いてくださって嬉しいです。fifthの表紙もありがとうございました。申請を出したので使わせていただきます！これからどのような展開になるかは秘密ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。ありがとうございます。 (2017年4月20日 15時) (レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)
スノウ - おつかれさまです！ついに主人公ちゃんから好き、という素直な気持ちが聞けて嬉しいのと同時に、これから彼女がどのように生きていくのか、不安なような楽しみなような。続編待ってます(^^*) (2017年4月18日 23時) (レス) id: 9bbfe87ee5 (このIDを非表示/違反報告)
雪 - お疲れ様です。続編も楽しみにしています。SHINOさんの花火を空が泣くと表現するところや、情景は目に浮かぶのに感情は明かさないようにするところとか本当に好きです。これからも頑張ってください。 (2017年4月18日 20時) (レス) id: 41f82b2237 (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - Yさん» コメントありがとうございます！儚さは私の意識している点でもあるのでとても嬉しいです。終わりを残念だと感じていただけるような作品をかけてよかったです。ですが、まだ終わりそうもないので引き続きお付き合いください。笑 応援、本当にありがとうございます。 (2017年4月16日 16時) (レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：SHINO
| 作成日時：2016年9月8日 17時
