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154. ページ20

千恵がいなくなった教室で、柳は1人頬杖をつきながら、遠くを見つめていた。

刹那、ドアノブを開く音が落ちる。


「やーなぎ」


緩い口調に、引きずったような足音。
これだけで誰かは大体想像がつく。


「仁王。
珍しいな、図書室にくるなんて」


振り返ることなく語りかけた柳は、今1番会いたくなかった相手の声に、少しだけ顔を歪めた。


「まぁな。
柳は帰らんのか?」

「ああ、もう少しここにいる」



『好き』

先ほどまでここにいた人物の声が、柳の頭の中で鳴り続ける。

今だけはその想いに浸っていたかった。
今だけはその声に素直でいたかった。

ずっと聞きたかった言葉。
ずっと聞きたくなかった二文字。
ずっと言えなかった想い。

色んな感情が突き抜けて、柳をきつく縛り上げる。




「俺に、気を遣っとるつもりなんか?」


緩い声は何処へやら。

柳の脳裏に浮かぶ千恵の声を遮るように、静かな怒りが落とされた。

千恵とAの会話を聞いていたのは仁王だったのだ。



柳がゆっくりと振り返れば、前髪の隙間から見える仁王の瞳が哀しく揺れていた。


「仁王、お前……」


気づいていたのか。

そう続くはずの言葉は、きつく結んだ柳の唇によって遮られる。
それでも仁王には伝わっていた。


「人を観察するのは俺の専売特許ぜよ。
お前さんだけじゃない」


2人のプレースタイルは少しだけ似ている。
どちらも人を嫌という程観察するのだ。

だからこそ、お互いが気づいてしまっていた。


「すまない」


余裕のない仁王を見ていられなかったのか、目をそらした柳はらしくもなく震えた声を発する。


「それは、何の謝罪ぜよ」


仁王が零した吐息も微かに揺れていて、何かを堪えるように閉じられた瞼は見たくない現実を嘆いているように見えた。


「俺がいつ頼んだんじゃ?
いつお前さんに千恵を諦めろと言った?」

「……」

「どうして、何も言ってくれんかったんじゃっ」



仲間だから。
仲間だから、言えなかった。
仲間だから、言わなければいけなかった。




.

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SHINO(プロフ) - スノウさん» スノウ様!いつもコメントありがとうございます。スノウ様のコメントは本当に何度も読み返してはニヤけてしまって、とても力をいただいています。そうですね、私も主人公の気持ちをやっと書けたので嬉しいです。笑 どうか最後までお付き合いください。 (2017年4月20日 15時) (レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - 雪さん» ありがとうございます。気をつけている事に気付いてくださって嬉しいです。fifthの表紙もありがとうございました。申請を出したので使わせていただきます!これからどのような展開になるかは秘密ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。ありがとうございます。 (2017年4月20日 15時) (レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)
スノウ - おつかれさまです!ついに主人公ちゃんから好き、という素直な気持ちが聞けて嬉しいのと同時に、これから彼女がどのように生きていくのか、不安なような楽しみなような。続編待ってます(^^*) (2017年4月18日 23時) (レス) id: 9bbfe87ee5 (このIDを非表示/違反報告)
- お疲れ様です。続編も楽しみにしています。SHINOさんの花火を空が泣くと表現するところや、情景は目に浮かぶのに感情は明かさないようにするところとか本当に好きです。これからも頑張ってください。 (2017年4月18日 20時) (レス) id: 41f82b2237 (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - Yさん» コメントありがとうございます!儚さは私の意識している点でもあるのでとても嬉しいです。終わりを残念だと感じていただけるような作品をかけてよかったです。ですが、まだ終わりそうもないので引き続きお付き合いください。笑 応援、本当にありがとうございます。 (2017年4月16日 16時) (レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:SHINO | 作成日時:2016年9月8日 17時

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